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家族信託と生前贈与の違い

家族信託と生前贈与というと、生前対策とか相続対策といったイメージがあるかもしれません。
実際には全く異なる制度なのですが、「生前にお金を誰かに渡す」部分が共通することもあり、何となく似たような制度であると感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は家族信託と生前贈与の違いについて確認していきましょう。

家族信託、生前贈与とは?

家族信託と生前贈与の違いを確認する前に、2つの制度の概要を確認したいと思います。

■家族信託
自分の信頼できる家族や親族に財産を託して運用・管理を行ってもらい、そこで生じた利益を信託契約内容に沿って、利益を還元することをいいます。
家族信託を利用するには、あらかじめ財産を託すひと(委託者)と財産を託されるひと(受託者)と信託契約を結ぶ必要があります。
信託契約は、法律に触れていたり、公序良俗に反していたりする内容でない限り、委託者と受託者の合意のもと、自由にカスタマイズできます。そのため、認知症対策や相続対策として利用されることがあります。
なお、受託者はあくまでも受益者のために財産を管理・運用しているだけなので、託された財産を自己目的で利用することはできません。

■生前贈与
生前贈与は大きくふたつに分けられます。

①条件なしに無償で自分の財産を贈与する場合
②条件付きで自分の財産を贈与する場合

①条件なしに無償で自分の財産を贈与する場合
条件を付けないで贈与を行う場合、自分の財産をあげるひと(贈与者)が財産を受け取るひと(受贈者)に対し、財産を無償で譲ることを伝え、相手が了承すると契約が成立します。
口約束でも契約は成立しますが、書面にしないと当事者の一方の意思によって契約を解除することができてしまいます。したがって贈与契約を結ぶ際には、契約書をしっかり作成した方が良いでしょう。

②条件付きで自分の財産を贈与する場合
「家をあげるので残りのローンは支払ってね」「介護をしてもらう代わりに財産をあげる」といったような、受贈者に負担がある場合の贈与契約のことを負担付贈与契約と言います。負担付贈与契約の場合、受贈者がローンの一部を支払っていたり、条件である介護をすでに始めていたりする場合、贈与者の一存で契約を解除することはできません。このようなケースで契約解除を行いたい場合、当事者同士で話し合って双方の合意のもと解除するしかありません。ただし、受贈者が契約を守らなかった場合には、債務不履行を理由として解除することができます。

家族信託と生前贈与の違いは?

家族信託と生前贈与の大きな違いは、以下の3つの点が考えられます。

  • 財産の所有権
  • 財産管理で得た利益の利用用途
  • 贈与税の有無

家族信託と生前贈与の違い①:財産の所有権

家族信託も生前贈与も自分の財産を受託者や受贈者の名義にする点については同じです。
金銭の場合には受託者や受贈者の口座に振り込みを行いますし、対象の財産が不動産の場合には、両方とも所有権移転登記が必要となります。
ただし、家族信託の場合、受託者はあくまで委託者の委託に基づいて財産管理や運用を行う立場です。そのため、基本的に信託契約を結んだ目的を達成したとき、または信託を終了する理由が発生した場合には、受託者は委託者に信託された財産を返還しなければいけません。

対して生前贈与の場合、自分の財産を受贈者に渡した時点で贈与された財産の所有権は完全に受贈者に移ります。契約そのものに瑕疵がある等の事情がない限りは、移転した所有権等が戻るということは予定されていません。

財産管理で得た利益の利用用途

家族信託では、受託者が財産管理や運用、処分を行って得た利益は、信託契約で指定されている受益者に還元されます。契約の内容によっては、受託者に財産管理や運用を行った対価として報酬を設定することもできますが、生じた利益はすべて受託者のものになるわけではないという点には注意が必要です。
一方で、生前贈与の場合、受贈者が贈与者から受け取った財産で財産管理・運用を行った結果生じた利益はすべて受贈者のものになります。

贈与税の有無

家族信託では、受益者が財産を信託した委託者であるかどうかで贈与税が発生するか異なります。委託者が受益者である場合、贈与税は発生しません、このような信託のことを自益信託といいます。なお受益者が委託者以外であった場合には、利用用途や受け取る金額によっては受益者が贈与税を支払う必要があります。

生前贈与の場合、財産を受け取った受贈者は、受け取る金額、利用用途によって贈与税を支払う必要があります。

贈与税は、基本的にその年の1月1日から12月31日までの贈与された分にかかりますが、非課税枠が設定してあり、合算して110万円以内であれば、贈与税がかかりません。
また、利用用途が教育費だったり、住宅購入資金であったりする等のような場合には、一定の範囲内で非課税になることもあるので、国税庁のホームページで確認したり、税理士等の専門家に聞いてみることをお勧めします。

家族信託と生前贈与で共通するトラブルとは?

家族信託と生前贈与は全く違う制度ですが、共通するトラブルもあります。 具体的にどのようなトラブルなのか確認していきましょう。

契約は必ず判断能力が低下する前に行う必要がある

家族信託と生前贈与を行うにあたり、共通するのは、当たり前のことではありますが、契約を結ぶ必要がある点です。契約は結ぶ人が契約内容を理解するだけの判断能力がなければ無効となります。
したがって、例えば重度の認知症を発症してしまい、判断能力が無くなった状態ではいずれの契約も結ぶことができません。
そのため、家族信託や生前贈与をお考えの場合には、自分が元気なうちにしっかり契約を結んでおく必要があります。

相続開始後、受託者や受益者、受贈者が相続人から遺留分を請求される恐れがある

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が持つ遺産の最低限度の取り分のことを指します。
家族信託の契約内容や、生前贈与で受け取った金額によっては、相続人の遺留分を侵害している可能性があります。
少しわかりにくいので、以下の具体例をご確認ください。

家族信託の場合
Aさんは実子が1人いるが仲が悪く、今後の介護について不安を覚えていた。
そこで、いつも何かと気遣ってくれる甥のBさんと合意のうえ家族信託契約を結んだ。
AさんとBさんが結んだ契約は次のようなものだった。

①AさんはBさんに所有している財産1000万円のうち800万円を信託財産として委託する
②介護や看護が発生した場合、BさんはAさんの介護や看護費用を信託財産から捻出する
③信託契約はAさんが死亡した時点で終了とする
④信託終了時に信託財産の残余金がある場合には、受託してくれた対価としてBさんに引き渡す

信託契約を結んでから3か月後癌が発覚し、治療を行ったが半年後に亡くなった。
Aさんの死後、財産調査を行ったところ、遺産は預貯金100万円と信託財産の600万円のみだった。
Aさんの子どもは、「子どもは私なのに、100万円しかもらえないのはおかしい」としてBさんに対し遺留分を請求した。

家族信託の信託財産は、相続財産の対象です。
また、いくら仲が悪いといっても、法律上の親子関係である以上、法律に定められた特別な事情が無い限り、親が子どもの相続権をはく奪することはできません。
そのため今回のように、信託契約で「信託終了後に余った財産は受託者のものとする」と決められていても、それが相続人の遺留分を侵害していた場合には、相続人から遺留分の侵害額請求を行われる可能性があるのです。
このような状態を防ぐ手立てとして、死後の残余金を報酬代わりにするのではなく、生前から信託報酬というかたちで、Bさんに財産を渡すという方法が考えられます。
ただし、実際には信託行為をしていないのに信託報酬を受託者に渡してしまうと、みなし贈与と判断され、課税される可能性もあるので注意が必要です。
家族信託を利用する場合には自分が思い描く理想を実現するためにどのような方法があるのか等をしっかり考えて契約を作成しなければなりません。

■生前贈与の場合
Cさんは子どもが2人いる。1人は娘Dさんで自宅の近くに住んでおり、年を取って大変だと感じている買い物や庭掃除、食事の用意等、さまざま手伝ってくれている。
もう1人の子どもの息子Eさんは、遠方に住んでいる。また、結婚後嫁姑の関係が悪化したことで、Cさんとの親子関係も悪くなってしまった。
Cさんは、自分の介助を行ってくれるDさんに遺産をたくさん渡したいと思った。しかし、相続となると遺言書を残したとしても争いになると聞いたので、生前贈与を利用しできるだけ多くDさんに財産を残そうと思い立った。
Cさんは亡くなるまでの8年間、Dさんに対して毎年100万円の贈与を行い、合計800万円を生前贈与した。Cさんが亡くなった後に残った財産は100万円だった。
Dさんは、生前贈与で800万円をすでにもらっていたので、残った100万円をEさんに渡すことを決めた。しかし、Eさんは「生前贈与の分を合わせれば900万円あったのだから、生前贈与で貰った分の350万円も支払え」とDさんに要求した。

相続には特別受益の持ち戻しといって、生前贈与された財産分を被相続人の相続財産に含めて計算することがあります。
生前贈与の場合、贈与された財産が特別受益に該当するかどうかは、贈与の目的と期間が重要となります。
特別受益の対象となるのは、特定の法定相続人へ「婚姻」「養子縁組」「生計の資本」を目的として贈与された分に限られます。
例えば、「結婚費用」「実子を養子に出した時の持参金」「新居を建てるための費用」等の理由で法定相続人に贈与した場合は特別受益の対象となります。また、特別受益には対象となる期間が定められており、被相続人が亡くなった日から遡って10年間までの生前贈与が対象です。
今回の場合、Cさんは亡くなるまでの8年間生前贈与を行ったことになるので、特別受益の対象になります。
また、生前贈与の目的に関しても、Dさんが経済的に困窮していた等の事情が無い限り、「生計の資本」に該当する可能性が高いです。そのため、争いになった場合Eさんへ遺留分を超えた部分の支払いに応じなければならない可能性があります。
このようなトラブルを防ぐため方法のひとつとして、Cさんが生前に「特別受益の持ち戻しの免除」の意思表示をすることが考えられます。
また、生前贈与の時期を早めることで、特別受益の持ち戻し期間にあたらないようにすることも考えられます。ただ、人の生死に関しては予測できないものですので、その点は考慮する必要があります。

まとめ

今回は、「家族信託」と「生前贈与」の違いや、共通するトラブルについて、例を交え解説していきました。
家族信託や生前贈与は、うまく利用すればとても便利な制度である一方で、相続後のことを考慮しないと、後々残された相続人同士で争いになってしまう可能性があります。
特に家族信託は、利用する方それぞれで理想とする結果が異なります。したがって、自分の状況に合った信託契約を作成するには、豊富な法知識が不可欠です。
家族信託はテンプレートがありません。盛り込みたい内容によっては、契約がとても複雑になり、一般の方では難しい場合もありますので、専門家のサポートを受けられることをお勧めしています。
弁護士法人えそらは、ご相談者さまその理想が現実になるようリーガルサポートを行なっています。家族信託の契約のご相談はもちろん、信託中にトラブルが起こった場合にも真摯に対応させていただきますので、お悩みの際は一度ご相談ください。

家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。