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委託者が死亡すると家族信託はどうなる? その後の信託に関する対応について

家族信託は、もともと財産を所有していた「委託者」と財産の管理を任される「受託者」、そして受託者による財産管理から利益を受ける「受益者」の3者から構成されます。
しかしこのうちの誰かが欠けてしまうことも起こり得ます。そこでここでは「委託者が死亡したとき家族信託がどうなってしまうのか」ということについて解説していきます。

委託者の死亡で問題になること

委託者は信託財産の元所有者であり、家族信託の依頼主とも言えます。

信託契約に基づいて信託財産の所有者は受託者に移りますし、以降の管理・処分の権限も受託者に移ります。そして受託者の管理によって生じる利益は受益者が受け取ることになります。委託者がいなければ信託契約はなりたちませんが、信託契約が成立して以降は、委託者は信託行為において大きな役割を持たないとも考えることもできますそれでは、その委託者が死亡してしまったとき信託契約はどうなるのでしょうか。
受益者と委託者が一致することもありますのでその場合には受益者の死亡の問題として別途検討する必要がありますが、ここでは委託者のみが死亡するケースを考えていきます。

主に問題となるのは①家族信託が終了するのかどうか、②信託財産はどうなるのか、です。

委託者の死亡と家族信託終了の関係

まずは、委託者の死亡により家族信託が終了するのかどうかを考えていきましょう。結論から言うと、家族信託を始める際に締結した信託契約の内容によって異なります。

「委託者の死亡」は法定の終了事由ではない

家族信託は、原則として委託者の死亡で終了とはなりません。
信託法第163条には「信託の終了事由」が列挙されていますが、ここには「委託者の死亡」が掲げられていません

 

第百六十三条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。
三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
四 受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。
五 信託の併合がされたとき。
六 第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。
七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。
八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第五十三条第一項、民事再生法第四十九条第一項又は会社更生法第六十一条第一項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項及び第二百六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。
九 信託行為において定めた事由が生じたとき。

引用:e-Gov法令検索 信託法 第163

 

1号の「目的を達成したとき」「目的を達成できなくなったとき」について、終了事由とされています。
2号・第3号に関しては、家族信託の仕組みが機能しなくなった場合規定されており、終了事由として定められています。

4号に関しては、受託者の支出する費用を信託財産でカバーできなくなった状況において、受託者が自らの意思で家族信託を終了させたときのことを指しています。そのため第1号から第3号までのように自動的に終了する性質のものではありません。

その他、第5号では複数の信託が併合することにより併合前の信託が終了すること、第6号では公益上の目的などから信託の終了についての裁判が下されたこと、といった形で終了事由がいろいろと法定されています。

つまり、法律上、委託者が死亡することをもって常に家族信託が終了するわけではないということです。

「委託者の死亡」を終了事由と定めていれば終了する

信託法第163条第9号には「信託行為において定めた事由が生じたとき」とあります。実際に問題となるのはこの部分になります。家族信託は法律に定められている場合だけではなく契約で別途終了事由を定めていれば、それを理由に終了させることは可能ということです。

よって、信託契約にて、信託が終了する事由として「委託者の死亡」を定めていれば家族信託は適法に終了することになります。

例えば以下のように信託契約書に条項を設けるとその効力を生じさせることができます。

第〇条 契約の終了
本契約は、次の場合に終了する。
(1)委託者が死亡したとき
(2)・・・
(3)・・・

委託者の地位は相続されるのか

次に、「委託者の地位は相続されるのかどうか」について見ていきましょう。
一般的には相続が開始されると被相続人の権利義務は相続人へと承継されます。被相続人が持っていた財産や権利などは消滅することなく、次世代へと引き継がれるのです。
それでは家族信託における委託者としての地位はどうなるのでしょうか。
結果は、信託の在り方によって変わります。一般的な信託契約の場合には原則として相続されると考えられていますが、「遺言信託」(※)をしている場合には原則として相続されません。

※遺言信託とは
遺言信託とは、「遺言書を使って信託を設定すること」を指します。受託者として設定したい人物を指定し、自分の財産を特定の目的に従って管理・処分等をする旨遺言書に記載するのです。この時点では一方当事者の意思表示でしかありませんので、契約にはあたりません。そこで通常は事前に受託者からの承諾を得た上で遺言信託は行われます。

相続人に委託者としての立場が相続されるとなれば、相続が次々と発生した際、権利関係が非常に複雑化してしまいます。また、もともとの委託者と相続により委託者となった人物と間で利益の相反が生じることもあります。元々の委託者は自らの意思で受益者のために財産を信託したのに対し、新たな委託者はこれに納得できないと考えることもあるでしょう。そうすると適切な家族信託が継続できないおそれが生じてしまいます。こうした事情があるため、遺言信託に関して委託者の相続人にその地位は相続されないと定められています

生前、信託契約を締結して家族信託をしている場合であっても同じ問題は生じます。しかし遺言信託のように規定が置かれていないため、相続一般と同じように扱われることになっています。そこで将来生じ得るリスクを排斥するため、「委託者の地位は相続により承継しない」と信託契約に定めておくことも可能です。承継させることのメリットデメリットも考慮して信託の終了事由を定めておくことが必要です。

家族信託が終了すると信託財産はどうなるのか

家族信託が終了した場合、信託財産はどうなるのでしょうか。

この場合についても信託法に規定が置かれています。

 

第百七十五条 信託は、当該信託が終了した場合(第百六十三条第五号に掲げる事由によって終了した場合及び信託財産についての破産手続開始の決定により終了した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)には、この節の定めるところにより、清算をしなければならない。

引用:e-Gov法令検索 信託法 第175

 

家族信託が終了すると清算手続にはいっていきます
そしてこの清算事務を行う人物は「清算受託者」と呼ばれ、基本的には受託者が清算受託者となり職務を遂行します。しかし、例えば、信託の終了事由に「受託者が死亡したとき」と規定されていた場合、受託者が不在の状態になってしまいます。そのような場合には、清算受託者を選定するところから清算手続を開始します。

清算受託者が清算を始める

清算受託者の職務については信託法第177条に規定が置かれています。

 

第百七十七条 信託が終了した時以後の受託者(以下「清算受託者」という。)は、次に掲げる職務を行う。
一 現務の結了
二 信託財産に属する債権の取立て及び信託債権に係る債務の弁済
三 受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く。)に係る債務の弁済
四 残余財産の給付

引用:e-Gov法令検索 信託法 第177

 

清算受託者の職務内容

1号:現務の結了

信託終了時点で発生していた対応途中の事務をすべて処理して終わらせなければなりません。

2号:債権の取立て・債務の弁済

信託財産に係る金銭債権などがあれば回収します。そして信託財産に係る未払いの費用などがあれば、その債務に充てて債権債務を清算していきます。

3号:受益債権に係る債務の弁済

信託債権者に対する弁済の後に、受益者への弁済を始めます。ただし残余財産の給付に関してはこの時点では行いません。

4号:残余財産の給付

1号から第3号の処理を終えれば、残った財産を所定の人物に給付していきます。

 

清算受託者は、これらの職務を遂行のために必要な一切の行為についての権限が与えられています。残余財産の受領を拒まれたときや帰属権利者が不明な場合などには、信託財産を競売にかけることも可能です。

残余財産は契約内容に従って処理

清算受託者には広範な権利が与えられますが、原則として信託契約の内容に従わなければなりません。
例えば信託契約で残余財産の帰属権利者が定められているのであれば、債権債務などの処理をした後でその人物に信託財産を引き渡す必要あります。清算受託者が勝手に選ぶことはできません。

また、信託財産に不動産があるなら登記手続も行います。
信託不動産の所有者を受託者から帰属権利者に変更するのです。不動産の名義変更は登記手続により行います。法務局にて申請、この手続をもって当該不動産の所有権引き渡し手続が完了します。そして所有権移転登記に併せて、信託抹消登記も行います。抹消登記に関しては受託者が単独で申請できますが、所有権移転登記は帰属権利者と共同で申請しなければなりません。

相続人は相続に関する一般的な手続も進める

相続人の方々は、委託者(被相続人)が死亡したとき、家族信託が終了するかどうか、その地位や信託財産の行方などとは別に、信託財産以外の相続一般に関する手続も進めなくてはなりません。
委託者の財産すべてが信託されているとは限りないので、相続開始後は財産調査および相続人調査を進め、信託財産以外の財産があるか調査を行い、信託財産以外の財産があれば、遺産分割協議を行って、取得した価額に応じて相続税の申告・納税なども進めていくことになります。

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