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家族信託で解決できる?深刻な「親なき後問題」の内容と解決策

障がいのある子どもを持つ方にとって「親なき後問題」は深刻な問題です。親自身が動けるうちに対策を打っておく必要があるでしょう。
「親なき後問題」と一言でいっても、そこには多様な課題が内包されています。そのため各々にとっての課題に合うように解決策を模索することが大切です。ただ、財産管理等に関する問題は家族信託で解決できるものが多く、一度家族信託の利用を検討してみる価値はあるでしょう。

この記事ではまず「親なき後問題とは何か」ということに言及し、具体的な問題の内容を説明するとともに、家族信託でどのように解決することができるのか、その他の解決策も併せて解説していきます。

「親なき後問題」とは

障がいのある子どもがいる家庭にとっては、面倒をみている親が亡くなる、あるいは加齢によりその子を支えられなくなる、といった事態をどのように対処するのかが大きな課題です。

子どもの財産管理や身上監護は誰が担ってくれるのだろうかと不安を抱いている方もいるのではないでしょうか。
この問題は「親なき後問題」と呼ばれています。

親“なき”後問題とはいいつつ、この問題は両親が亡くなったときにだけ起こるものではありません。両親が高齢になると判断能力の衰えが進み、親自身も誰かに面倒をみてもらう必要が出てくることもあります。両親の高齢化で体力が衰えたときも同様です。親自身が介護を要することになれば障がいを持つ子どもの面倒をみることは困難になるでしょう。
そのため親が亡くなる以前であっても「親なき後問題」への対処が必要になる場面はあるのです。

「親なき後問題」で困ること

「親なき後問題」が起こると、具体的にどのような点で困るのでしょうか。解決策を見出すためにも、起こり得る問題の内容を詳細に見ていきましょう。

後見人となる人物

親なき後、「障がいのある子どもの後見人を誰が担ってくれるのか」という問題があります。

障がいを持つ方に限らず、判断能力の衰えがある方に対しては後見人が付くことがあります。認知症で判断能力が衰えた方などが代表例です。後見人がつくと後見人が本人のサポート役となり、生活に必要な契約行為などを代わりにしてくれるようになります。

障がいのある子どもに関しても、医療サービスの利用時や介護福祉サービスの利用時に契約を締結する必要があり親がいる場合には親がその役割を担いますが、親なき後には後見人を付けて、後見人にこれらの契約を行ってもらう必要があるのです。

後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあるのですが、前者は本人と任意後見人候補者とがあらかじめ任意後見契約という契約を締結しておくものです。
他方、後者に関しては本人の判断能力が低下・喪失してから事後的に家庭裁判所への申し立てを経て成年後見人が付されるものです(判断能力の程度に応じて成年後見人・保佐人・補助人などが選任される)。

親以外に障がいのある子どもとの関係性が近く、距離的にも近くサポートがしやすい人物がいれば、裁判所によってその人物が後見人となることもありますしかし、裁判所が選任する後見人は親族以外から選ばれることが多いので、後見人になってほしい人がいる場合にはあらかじめ任意後見契約を締結しておくことが大切です。

住まい・施設の確保

親なき後、子どもの住まいや入所する施設など、「生活の拠点となる場所をどのように確保するか」という問題があります。

それまで在宅での医療サービス・介護サービスを受けていた場合、両親が亡くなってしまってからでは同じように対応するのが難しくなるケースがあります。
他に同居親族がいたり、子どもの障がいの程度が軽度でだいたいのことは自分でできたり、といった場合にはそれほど深刻な問題にはならないかもしれませんたとえ在宅介護が可能であったとしても、いざという時に迅速な対応ができるのか、という点で不安が残ります。そのため在宅介護が可能であっても親なき後は施設への入所を希望されるケースがあります。

また、生活拠点の問題については、同居親族の負担に関しても考慮しなければなりません。
「同居している方に任せられる」と安易に考えるべきではありません。その方にもその方の生活があり、障害の程度によっては生活をともにすることによって身体的・精神的な負荷がかかり、耐えられないほどの負担になるおそれもあります。

そのため費用面についても考えなくてはなりませんが、一度、施設への入所に関しても検討することが大切です。

しかしながらここでさらに大きな問題にぶつかります。「自由に入所できる場所があるとは限らない」ということです。
精神障害者や認知症高齢者向けの施設はある程度施設数が確保されている一方で、重度の障がいを持つ方を受け入れることができる施設は比較的少ないのです。実際、重度の障がいを持つ方施設入居の待機者は多いといわれています。重度でなくとも施設の数や居室の余裕に関してはエリアによる差があります。
同居親族もいないとなれば、住まいの確保も難しくなってしまうおそれがあります

生活費の維持

親なき後、「子どもの生活費はどこから捻出するのか」という問題もあります。
障害者年金などの収入、親が残した財産の相続などによりある程度は確保できるかもしれませんが、それだけで将来にわたり生活を維持することができるのだろうかと不安を持つこともあるでしょう。

第三者が後見人として就く場合、基本的には後見人報酬の支払いもしなければなりませんし、生活の維持には相当の費用がかかってきます。ボランティアによる第三者後見人が就いてくれるケースもありますが、専門家が後見人にならない場合、後見人として必要な知識や資質を備えていない可能性もあり、費用とは別の問題も起こり得ます。

親の財産の行方

親なき後、子どもの財産管理については原則として後見人が担います。
財産が十分に残っている場合、子ども自身の生活費に関してそれほど不安を持つことはないかもしれません。

しかしこれとは別に、「最終的に財産はどこに行くのだろうか」という問題も起こります。
基本的に財産は相続により当人の子に受け継がれていきます。子がいない場合でも親や兄弟姉妹、孫などの親族がいれば民法の規定に従いそれらの人物に相続権が渡ります。
それでは相続人が一切いない場合はどうでしょうか。この場合であっても、本人に十分な判断能力があれば遺言書の作成により特定の人物等に承継させることは可能です。
ただ、本人に十分な判断能力がなく遺言書を作成することもできなければ、最終的に財産は国庫に帰属することとなります。つまりは、元々親が持っていた財産は最後には国の財産となるのです。

家族信託による「親なき後問題」の解決

家族信託により「親なき後問題」を解決することは可能です。

家族信託とは、委託者・受託者・受益者の3者を当事者とする契約で、“委託者が財産を受託者に信託し、受託者が契約内容に従い受益者のために財産管理や運用をしていく”というのが基本形となります。
「親なき後問題」においては、親が委託者となり自らの財産を信託し、障がいのある子どもを受益者として設定します。その結果、子ども自身が財産管理や資産運用をすることなくその恩恵を受けられるようになるのです。
このように、障がいや持病のある方のために活用する家族信託は「福祉型信託」とも呼ばれます。

ただ、家族信託も万能ではありません。あらゆる問題が家族信託により解消されるわけではないのです。
家族信託の強みは「財産管理」にありますので、それ以外の介護や医療の契約締結等を行うことはできません。残された子の生活費の確保や財産管理、財産の行方などに対する不安が強いときには家族信託の利用がおすすめできます。

家族信託の活用例

「親なき後問題」への対策として家族信託を活用する例を見てみましょう。

Aと、Aの子どもBCがいる家庭を想定します。Cには障がいがあり、Aは死後のCの生活に不安を抱いています。Bは献身的に介護もしてくれており、Aも信頼を寄せています。
ここで家族信託を活用する場合、Aを委託者、Bを受託者としてAの財産を信託することになります。ただ、家族信託を開始した時点ではAは生きているため、そのすべての財産をCに渡すわけにもいきません。そこで信託契約では第一次受益者をAとし、Aが亡くなったあとは第二次受益者をCに受益権が移るように設定します。さらにCの死後は信託を終了させ、権利帰属者としてB財産が移るようにすることも可能です。
こうすることでAは自らの財産による利益を自分が受けることができ、自身が亡くなった後はCが利益を受けられるようになります。どのように財産を管理するのか、BはどのようにCに受益させるのか、これらはすべて信託契約で定めることができます。

仮に受託者Bの職務の負担が大きな場合には、報酬の支払いについても検討します。財産は消耗しますが、受託者としてもモチベーションに繋がりますし、安心して任せやすくなります。

もちろん遺言書を作成することでもある程度財産の行方を指定することは可能です。
しかし遺言書だと、その相続においてのみの指定しかできません。「Aの死後、Aの財産はCに渡し、Cの死後はさらにその財産をXに渡す」といった二次相続の指定まではできないです。そのためCの死後、Cに相続人がいない場合には結局その財産は国庫に帰属することとなります。
さらに遺言の場合には、死亡してからしか効力が発生しないので、認知症や体力低下という事態に備えることができません。
他方で家族信託なら、二次相続の指定やあらかじめの運用が可能なので長期の財産管理を定めることができます。そもそも委託者が自らの財産を信託した時点で、その財産は委託者のものではなくなります。遺言書では実現できないようなことも、家族信託なら比較的自由に実現することができます。

家族信託以外の手段も検討

家族信託では身上監護の面でカバーできないこともあります。
そこで家族信託一択で対策するのではなく、その他の手段も一緒に検討してみると良いでしょう。

後見制度の利用

本人の法律行為をサポートするため、後見制度の利用も検討しましょう
親が亡くなってから事後的に対応したのでは上記の担い手問題にぶつかるおそれがあります。
そこで、“親が元気なうちからあえて後見制度を利用する”というやり方も検討してみましょう。そうすることで後見人への引き継ぎがスムーズになります。
実際に後見を開始しなくても、あらかじめ候補者を探しておくだけでも進めておくと良いです。

後見人は1人である必要もありませんので、1人に任せるのが不安という場合には複数人同時に就任してもらうようはたらきかけても良いかもしれません。

なお、後見制度の利用にあたっては事前に弁護士に相談しておくことがおすすめされます。現状を伝え、後見制度を利用すべきかどうか、どのような形で利用をするのがベストか、アドバイスを受けて最適な対策を取るようにしましょう。
このことは家族信託に関しても言えます。信託契約の設計は簡単ではありません。契約内容のチェックや契約書の作成など、できるだけ安全に家族信託を始めるため、弁護士に依頼して対応しましょう。

各種支援事業の利用

法的な支援制度だけでなく、民間の組織が実施している各種支援事業や自治体ごとに実施している福祉サービスなどもありますので、それらも利用を検討してみることをおすすめします。

サポートをしてくれる人たちとのネットワークを築く

支援制度、支援サービスの利用だけでなく、身近な方々とのネットワークを築いておくこともとても大切なことです。近隣の方に事情を伝えておいて万が一の事態に協力が得られるような関係性が築けておけると安心して暮らすことができます。

ボランティア団体などもありますので、探してみるとよいでしょう。
団体でなくとも、個人レベルでも信頼できる専門家との繋がりを持っておくと良いです。弁護士などの法律系の専門家、その他医療や介護に関する専門家との繋がりを築いておけば様々な事態に対処しやすくなります。

家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。