家族信託の登場人物

家族信託と呼ばれる財産管理の手法を選ぶ方が増えています。とくに、認知症を懸念して、保有している財産を家族に託しておく高齢者が増えているのです。認知症を患う高齢者は6人に1人といわれており、他人事ではありません。

家族信託の当事者になる可能性は、誰でもあります。そのため、家族信託の仕組みや登場人物(委託者・受託者・受益者)について把握しておきましょう。

家族信託の仕組み

家族信託とは、財産を所有する「委託者」が「受託者」に財産の所有権を移転して、財産管理・運用してもらうことをいいます。「受託者」は家族信託契約の内容に沿って、財産を管理・運用していき、「受益者」に利益を渡します。

家族信託の主な登場人物

家族信託の主な登場人物として、「委託者」「受託者」「受益者」がいます。それぞれ、どのような役割を担っているかを把握しておきましょう。

委託者

委託者は、家族信託を設定する者をいいます。信託目的や信託期間、受益者を定めて、自己の保有財産を受託者に預けます。簡単に述べると、財産の所有者です。

委託者は、信託財産の管理・運用方法について細かくルールを定めることができます。また、家族信託の状況に関する報告を請求したり、受託者の選任・解任ができる権利を保有していたりします。

受託者

受託者は、委託者より信託された財産を、信託目的を果たすために管理・運用していく役割を担う人をいいます。信託契約の内容に沿っていれば、受託者の意思で財産管理・運用していけます。

しかし、信託契約で制限が掛けられている場合は、契約内容に従わなければいけません。例えば、信託契約書に「不動産売却の禁止」が記載されている場合は、委託者が所有している不動産売却は行えません。

あくまでも、受託者は信託契約の内容に沿って、財産管理・運用をしていかなければいけないのです。

受益者

受益者は、家族信託における受益権(投資信託の運用収益などの利益を受け取れる権利)を持つ人をいいます。原則として、委託者が受益者を指定します。従って、受益者は意思表示をせずとも、受益権が得られるのです。受益者は、委託者が指定する人であれば、個人・法人を問いませんし、委託者を受益者とすることもできます。また、受益者は複数人を指定することも可能です。

【受益者に指定できる人】

  • 委託者自身(※自益信託)
  • 委託者以外の個人
  • 法人(※株式会社・有限会社・民法法人・団体・組合を含む)

家族信託の登場人物に関するよくある質問

家族信託が注目を浴びているため、いつ、家族信託の登場人物になるかは分かりません。実際に、家族信託の登場人物になった場合、さまざまな悩みや不安が出てきます。

実際に、家族信託の「委託者」「受託者」「受益者」になった方は、どのような疑問を感じているのでしょうか?ここでは、家族信託の登場人物に関するよくある質問をご紹介します。

Q.どのような方が家族信託の手続きを利用していますか?

家族信託は、高齢者の方から注目を浴びています。自分が認知症を患ってしまったときに、財産管理や運用を家族に託したいという目的で、家族信託をご利用しています。

また、家族信託の契約書は、遺言書の代わりになるため、生前整理をしている方も家族信託の制度を利用されることが多いです。

また、事業が倒産する恐れがあり、保有財産が差し押さえられないように家族信託を利用する方もいます。

Q.家族信託の手続きは自分で行えますか?

家族信託の手続きは、ご自身で行うことができます。しかし、家族信託契約書の書き方を間違えてしまうと、トラブルに発展しかねません。契約書の記載不備によるトラブルは多いです。

また、財産に不動産が含まれている場合は、所有権移転や節税対策などの専門知識が必要です。これらを独断でやってしまうと、贈与や相続で大きな損をしてしまいかねません。そのため、家族信託を検討している方は、専門業者に相談をしてみてください。

Q.家族信託を利用する場合の注意点はありますか?

家族信託はまだまだ認知度が低い制度で、細かいルールが定められていません。家族信託に精通している専門家は多くはありません。

家族信託は、法的な知識だけでなく税金知識や不動産知識など高度な知識を必要とします。そのため、専門家に相談をする場合には、必ず、家族信託の実績を豊富に持つ専門家に相談をしてください。

Q.家族信託の手続きには費用がかかりますか?

家族信託の手続きには「公正証書の作成費用」「弁護士や司法書士等専門家の報酬」「税金」がかかります。かかる費用の総額は、家族信託の財産の額や件数などによって変動します。

Q.受託者に選ばれたら何をするべきですか?

家族信託契約を締結して、受託者になった場合は、信託専用の銀行口座を開設しましょう。委託者の名義の銀行口座のお金は引き落とすことができないため、家族信託の専用口座を開設するのです。

また、信託財産に不動産が含まれている場合は、所有権移転や火災保険の名義人変更をしなければいけません。不動産投資に物件を回している場合は、賃借人や不動産会社に挨拶をしておきましょう。

Q.受託者は信託報酬額を受け取れますか?

委託者の代理で財産を管理・運用する受託者は、信託報酬額が受け取れます。信託法上は、報酬額の上限が定められていないため、家族で相談して同意した金額が支払われます。

信託報酬額で家族間トラブルを避けたい場合は、家庭裁判所が定める成年後見人の報酬の目安を参考にしてみてください。

◆成年後見人の基本報酬

管理財産額 月額費用
1,000万円以下 2万円
1,000万円~5,000万円 3万円~5万円
5,000万円超 5万円~6万円

Q.受託者が悪いことをした場合はどうなりますか?

受託者が違法行為をした場合には、信託管理状況の報告が求められて、損害賠償が請求されます。また、違法行為が行われる可能性がある場合には、受託者の解任が命じられます。

委託者が信頼している人を受託者として選任しているため、信託契約を締結する段階で、委託者は違法行為がされるなど想定していません。受託者は、あくまでも信託目的を達成するために、委託者から預かった財産の管理・運用をすべき立場です。

違法行為は金銭トラブルだけではなく、家族間トラブルや、場合によっては刑事事件にも発展してしまうため、注意してください。

Q.登場人物以外の方に知らせる場合はどうすればよいですか?

家族信託は、委託者と受託者が信託契約を締結すれば、成立するものです。従って、他の家族に伝える必要はありません。

しかし、家族信託の制度が認知されているものではないため、「相続財産を独り占めしようとしている…」と疑われてしまうこともあります。このような家族間トラブルを開けたい場合は、信託契約を締結する前に家族会議でよく話し合うようにしましょう。必要であれば専門家から説明してもらうということを検討するのも良いでしょう。

Q.受益者は利益を受け取る際に課税されますか?

不動産など大きな財産を信託する場合、受益者の利益に贈与税が課税されるおそれがあります。また、不動産の所有権を取得する場合には、不動産取得税や登録免許税、固定資産税を支払わなければいけません。これらの税金の支払い義務は受益者にあります。そのため、どの程度の税金が課税されるかを把握しておくことが重要です。

Q.受益権を他人に譲渡することはできますか?

家族信託では、受益権を他人に譲渡することができます。無償で受益権を譲渡すれば、新たな受益者に贈与税が課税されることになります。しかし、有償で受益権を譲渡する場合は、譲渡した元の受益者にも譲渡所得税が課税されることになるため、気をつけてください。

まとめ

今回は、家族信託の登場人物について解説しました。最後に、おさらいをしておきましょう。

委託者:委託者は、家族に財産を託す人

受託者:委託者より信託された財産を、信託目的を果たすために管理・運用していく役割を担う人

受益者:家族信託における受益権(投資信託の運用収益などの利益を受け取れる権利)を持つ人

いつ、家族信託の登場人物になるか、可能性は誰にでも潜んでいます。そのため、家族信託にあるよくある質問を把握しておきましょう。もし、家族信託の登場人物になり、不安なことや疑問に感じたことができた場合は「弁護士法人えそら」にご相談ください。

家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。