家族信託が終了するタイミングとは?残った信託財産はどうなる?
家族信託は近年注目を集めている、相続対策や資産運用の手法です。契約内容を工夫することで、他の法定されている制度を利用するより自由度の高い財産管理や資産運用ができます。
長期に及ぶこともある契約ですが、いつか起こる家族信託の終了も想定した契約内容の設計が大事です。具体的にはどのようなタイミングで家族信託が終了するのか、また、家族信託が終了した後に残された信託財産の行方についても理解しておく必要があります。
目次
家族信託はどんなときに終わるのか
家族信託が終わるのは、次のようなケースです。
- 契約で定めた終了事由が生じたとき
- 信託法所定の終了事由が生じたとき
- 委託者と受益者の合意があるとき
- 特別の事情により裁判所から終了を命じられたとき
- 公益確保のために裁判所から終了を命じられたとき
それぞれの内容を説明していきます。
契約で定めた終了事由が生じたとき
家族信託を始めるとき、信託契約を交わすことになります。
その契約の中で、信託が終了する事由について定めることができ、その後当該終了事由が生じると家族信託は終了します。
代表的な規定としては、委託者や受益者が死亡することを終了事由として定める例です。
なお、受益者の死亡については、次に受益権を取得する人物を契約で定めることも可能です。そのため「受益者が亡くなれば信託も終了せざるを得ない」と考える必要はありません。新たな受益者を設定して、家族信託を継続させても良いのです。
しかしながら、契約で定めたからといって永久に受益権をバトンタッチし続けることはできません。信託法では、“信託開始から30年を経過したとき、そこからの受益権の移転は1回に限る”と規定しています。
30年経過後、次の受益者が死亡すると、家族信託は終了します。
信託法所定の終了事由が生じたとき
当事者間で終了事由を定めていなくても、信託法第163条に規定されている一定の事由が生じたときは、家族信託は終了します。
以下にその事由をいくつか挙げます。
- 信託の目的を達成した、または達成できなくなった
- 受託者が、受益権の全部を固有財産として所有する状態が1年間続いた
- 受託者が欠けて、新たな受託者が1年間就任しない
- 信託が併合された
- 信託財産に関する破産手続開始決定を受けた
- 委託者が、破産手続開始決定・再生手続開始決定・更生手続開始決定を受け、信託契約が解除された
これらの状態が生じると、家族信託は強制終了になります。
契約で定めることができるのは終了するパターンを増やすに限り、法定の終了事由を排斥することはできません。
当事者の合意があるとき
信託法では家族信託の終了に関して、他にもいくつかの規定を置いています。
その1つが、次の第164条です。
委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。
2 委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
3 前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
4 委託者が現に存しない場合には、第一項及び第二項の規定は、適用しない。
同条は、家族信託をスタートさせた後でも、委託者と受益者は両者の合意によって家族信託を終了させる権限を与えています。
法定の終了事由が生じていなくても、あらかじめ契約で定めた事由が生じていなくても、「やっぱり家族信託をやめよう」という合意が可能ということです。
あくまでも“委託者と受益者の合意”が条件とされており、同じ信託契約の当事者である“受託者の同意”はここに含まれていません。
受託者は、委託者に依頼されて、受益者のために仕事を遂行する立場にある人物です。そのため受託者が突然仕事をやめてしまうと受益者や委託者も困ってしまいます。これに対して家族信託による利益を受ける受益者の同意があるのなら、家族信託が終わっても困る人はいないとも考えられます。
とはいえ、信託財産の運用状況によっては、突然家族信託を終了させられることにより受託者が迷惑を被る可能性もあります。
そうした状況を想定し、同条第2項では、やむを得ない事由を除き「受託者にとって不利な時期に終了して損害が生じたときは、委託者と受益者は、その損害を賠償しないといけない」とも規定しています。
特別の事情により裁判所から終了を命じられたとき
裁判所から「家族信託を終了しなさい」と命じられて終わるケースもあります。
重要なのは信託の目的を果たすこと、受益者の利益に適合する事務を遂行することであって、家族信託を継続することではありません。
そこで、契約を交わした当時には予想できなかった特別の事情が発生したとき、当事者が裁判所に申立をすることで、信託終了の命令を求めることができます。
「これ以上家族信託を続けているとかえって財産が減ってしまう、受益者の利益がなくなってしまう」と考える当事者がいても、委託者と受益者の合意がなければ終了させられません。
また、委託者がすでに亡くなっている場合にも合意による終了はできません。
そこで、裁判所に評価をしてもらい、家族信託を終了させる手段が用意されているのです。
そのため裁判所からの命令といっても、突然脈絡もなく裁判所が家族信託を評価して終了を命ずるわけではありません。当事者の誰かが「終了した方が良さそうだ」と判断し、申立てることをきっかけとします。
公益確保のために裁判所から終了を命じられたとき
家族信託の当事者のほか、法務大臣や信託債権者、その他家族信託に利害関係を持つ人物が裁判所に「信託の終了」を申し立てることもできます。
ただしこのときは“公益確保”が目的でなければなりません。
“受益者の利益のためにならない”といったことを理由に申し立てることはできません。
具体的には「家族信託に不法な目的があるとき」などです。
脱税をするため、債務から逃れるためなど、信託の仕組みを悪用するような場合には、家族信託に不法な目的があると評価されやすいです。
また、「受託者が、権限を濫用している」「受託者が犯罪行為をしている」といった場面でも申立ができます。ただしこの場合は、即座に申立ができるわけではなく、これらの行為について法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらずなお継続的にまたは反復して当該行為をした場合に申立ができます。
家族信託終了後の信託財産について
家族信託が終了すると、信託財産の清算手続に入ります。この清算手続きを行う人を「清算受託者」といいます。通常は、信託終了時の受託者が行いますが、信託終了事由に受託者の死亡があった場合、受託者は不在となりますので、そのようなときには新たに清算受託者を選任します。
清算受託者が選任された後は次の流れに沿って信託財産が処分されていきます。
- 信託財産に関する債務の弁済の充てられる
- 信託契約で定められた人物に帰属する
- 委託者または委託者の相続人等に帰属する
- 清算受託者に帰属する
各ステップの内容を説明していきます。
信託財産に関する債務の弁済の充てられる
まずは信託財産に関する債務を弁済するために、信託財産が処分されます。
信託財産の管理や運用などをするのに債務が発生しており、未払いの金銭などがあるのなら、当然まずはそれらを弁済しないといけません。
信託契約で定められた人物に帰属する
信託債権者に対する支払いを済ませ、信託財産がまだ残っているときは、家族信託の契約で定めた所定の人物に帰属します。この所定の人物とは、「残余財産受益者」と「帰属権利者」のことです。
もともと信託財産から生じる利益は受益者が受けます。そして信託契約で、残余財産についても受益者がその給付を受けられると定められているときは、「残余財産受益者」として残った財産を受け取ることができます。
また、それまで受益者ではなく信託財産から利益を受け取る立場になかった者についても、信託契約で「残余財産に関しては受け取ることができる」と定めることができます。こちらは残余財産の「帰属権利者」と呼ばれます。
委託者または委託者の相続人等に帰属する
残余財産受益者や帰属権利者が設定されていない場合、あるいはそれらの人物が権利を放棄した又は死亡等により存在しないときには、委託者又はその相続人その他一般承継人が帰属権利者として残余財産を受け取ることになります。
清算受託者に帰属する
委託者もその相続人もいない場合、最終的に残余財産は「清算受託者」に帰属します。
受益者死亡による家族信託終了後の流れ
家族信託が終了するパターンはここまでで説明した通り、多岐にわたります。
ただ、よくある終了パターンは「受益者の死亡」と考えられます。
そこで受益者が亡くなったことにより家族信託が終了した状況を例に、その後の手続、流れを示していきます。
信託財産の調査を行う
家族信託終了後の信託財産について、どのような財産が残っているのか、正確に調べていきましょう。
受託者や家族、そして弁護士などの専門家にも協力してもらい、漏れのないように財産を調べていきます。
特に、家族信託が開始されてから長い期間が経過している場合、当初の信託財産とは形が大きく変わっている可能性が高いです。当初不動産が信託されていたものの、信託行為の過程で不動産が売却されていることもあり得ます。他にも複雑な権利義務関係を構築している可能性もあります。
受益者の相続財産の調査
家族信託そのものとは別に、受益者固有の財産についての相続も発生します。
そのため、信託財産以外の、さまざまな保有財産についても調査を進めないといけません。建物や土地、現金や預貯金、有価証券、貴金属、自動車、骨董品、あらゆる保有資産をチェックしていきます。
また、負債についても調べておかないといけません。借金が残っている場合には相続人が相続放棄を検討することにもなります。
しかし借金の有無だけでその判断はすることができません。資産とのバランス、そして家族信託の残余財産が帰属する場合にはその残余財産の大きさも考慮して判断することが大事です。
なお、理論上は相続人としての立場と残余財産を受け取る立場は別物です。
前者は被相続人(亡くなった受益者)との血縁に基づくものであり、後者は契約に基づくものです。
とすれば相続放棄で負債を捨て、信託財産からプラスの財産を受け取るということも不可能ではありません。
ただ、その行為が信託制度の濫用、不法な目的による信託などと評価されてしまう可能性もゼロではありません。家族信託が無効になる、あるいは相続放棄が無効になるリスクを認識の上、どのように行動を起こすべきか、弁護士に相談して最適な判断を下すようにしましょう。
清算受託者による信託財産の清算
残余財産については、上述の通り、清算受託者が手続を進めます。
金融資産があるときは銀行や証券会社とのやり取りを行うことになりますし、不動産があるときは司法書士に依頼して登記手続を行うことになるでしょう。
その他残余財産の内容に応じて多くの手続を清算受託者は行う必要があります。
弁護士や司法書士、税理士、不動産業者など、さまざまな専門家の力を借りて、不備のないように清算を進めることが大事です。
家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。