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家族信託でアパート経営をするメリット・デメリットとは?

アパートを所有し、これを他人に貸すことで、家賃収入を得ることができます。このアパート経営は、継続的に、そして比較的安定的に収入が得られる事業であると注目されています。
ただ、長く経営を続けていると「経営者の認知症による判断能力の低下」や「経営者死亡後の後継者」等の問題に直面します。そこで検討することになるのが家族信託です。
家族信託の仕組みを利用してアパート経営をすれば、種々の問題を解決することができます。具体的にどのようなメリットがあるのか、またデメリットについてもここで解説していきます。

家族信託を利用したアパート経営について

アパート経営とは、アパートを所有する方がその一室を他人に賃貸し、入居した方から家賃を受け取るという形で営む不動産事業です。

もともと所有していた土地にアパートを建てて経営を始めるケースもあれば、新たに土地を取得してアパートを建てるケース、中古のアパートを購入して経営を始めるケースもあります。いずれにしても、収入を得るシステムは同じです。

アパート経営を始めるにあたり特別な資格を取得している必要はありません。マンションに比べると規模も小さく建てやすいです。そのため不動産事業としては比較的始めやすい部類に入ると考えられています。
また、活用できていない土地がある場合、この上に賃貸物件を建てて他人に使用させることで更地の場合よりも課税評価額を下げることができます。アパート自体も賃貸物件であるため建物の時価より安く評価することができ、相続税対策にもなります。

一方で、マンションに比べて規模が小さいとはいえ相当の自己資金は必要です。ローンを組む場合は借入金返済のリスクを負うことになりますし、築年数が増してくると収益性が落ちるというという難点もあります。
そして長く経営を続けていると、所有者も加齢により判断能力が下がってきます。そうなると上手く収益を生むことができなくなるだけでなく、法律行為ができなくな経営自体が滞ってしまいます。

そこで候補に上がってくる有効な対策が「家族信託」です。
家族信託は委託者・受託者・受益者の3で構成されており、委託者と受託者の2者間の契約によって成立します。アパートの所有者が委託者となり、信頼できる家族を受託者として定めます。受託者は委託者に代わりアパート経営を行います。
ここまでだと単に受託者にアパートを与えたに過ぎませんが、委託者兼受益者とすることで、委託者はアパート経営を任せつつそこから生じる収入を得ることができます。

受益者を誰にするか、各当事者が亡くなったときの指定なども自由です。工夫次第で認知症対策や相続対策などを取ることができます。

家族信託でアパート経営をするメリット

アパート経営を家族信託で家族に任せることで、上述の通り「認知症対策」や「相続対策」を取ることができるようになります。
また、「二次相続も考慮した後継者の指定ができる」「委託者に破産などの問題があってもアパートを守れる」「アパート経営にあたり受託者の“信用”を使うことができる」といったメリットも得られます。

詳細を以下で説明していきます。

認知症になってもアパートの経営が続けられる

家族信託であらかじめアパート経営を家族に任せておけば、もとの所有者である委託者の加齢から来る諸問題を予防できます。

例えば受託者として委託者の息子を設定したとしましょう。
判断能力が十分残っているうちにアパート経営を息子に信託しておけば、仮に委託者が認知症などにより判断能力を欠いたとしても、支障なく息子が経営を続けることができます。

もし委託者が、自分で経営することにこだわっていた場合委託者が判断能力を欠いたときに経営が滞り、収入が減り、生活に支障をきたすおそれも出てきます。
判断能力の低下した本人を保護する法的制度として「成年後見制度」がありますが、同制度では積極的な資産運用はできません。成年後見人ができるのは、本人が生活をする上で必要な法律行為のサポート、財産の維持をするための行為です。そのため事後対応ではアパート経営に上手く対応できないおそれがあるのです。

家族信託なら事前に受託者に経営を任せることになりますし、受託者のする行為については委託者が契約時に制限をかけることもでき、好き勝手に処分されることも防げます。

相続対策ができる

基本的には委託者が亡くなることで信託も終了します。しかし自分の死後も信託を終了させずアパート経営を誰に引き継がせるか、その利益は誰が受け取るかというところまで信託契約で定めることが可能なので、相続対策を取ることもできるということになります

この点は遺言書とも似ていますが、遺言書を使って後継者を指定した場合、後継者である受遺者がこれを断る可能性もあります。また、突然任されたアパート経営に不安を覚えることもあるでしょう。
家族信託であれば、相続開始前から委託者の指導下でアパート経営を始められますし、後継者を確保した状態で相続を迎えることができます。 

二次相続以降のアパート所有者も指定できる

遺言書と異なる点はもう1つあります。それは、“二次相続以降の対策もできるかどうか”です。

アパート所有者が遺言書で「アパートは息子Aに与える」と記載することで、遺言者が亡くなったときの相続(一次相続)について法的な拘束力を生じさせることができます。
しかしさらに「息子Aの死亡後は、アパートは孫Bに与える」と遺言書に記載しても、これを強いることはできません。

息子が死亡したときの相続は、先の相続に対して二次相続と呼ばれるのですが、二次相続に対してまで一次相続の被相続人が遺言書で拘束することは認められていません。

しかし家族信託なら別です。アパートからの利益を取得する人物を、2世代に渡り指定することができます。
こうして、長期の資産管理体制が構築できるのは家族信託の大きなメリットです。

自己破産があってもアパートを確保できる

通常、自己破産をすることになれば、破産者の所有していた財産は手元を離れることになります。アパートを所有していても手放さないといけません。

しかし家族信託を利用して信託財産となったアパートは、委託者から独立した存在となります。そのため委託者が破産をしたとしても差し押さえの対象にはなりません。

さらに信託契約によって、アパートの所有権は受託者に移るものの、信託財産は受託者固有の財産とも区別されるので、受託者が破産した場合であっても差し押さえの対象になることはありません。

受託者の“信用”が使える

アパートを経営していると、リフォームや建て替えなどのために費用が必要になることがあります。その際に金融機関から資金の借入をしたいと考えたとしても金融機関との取引は誰でもできるわけではありません。
お金を貸してくれる取引相手にもリスクがあるからです。

たとえば一定水準以上の収入を得ているなど、債務を弁済してくれることに対する“信用”が得られないといけません、同じ収入額の人物同士なら、年齢的に若い方の方がこの審査は有利になります。高齢だと死亡のリスクが高まるからです。

その結果、高齢な方がアパート経営をしている際にこうした借入ができず、リフォーム等を行うことができないという状況が起こり得ます。

しかしそのアパートを子供などを受託者とした家族信託をしておけば、受託者が債務者となって、“受託者の信用”で審査を受けて、金融機関から借入をすることができますこれを信託内借入といいます。信託内借入をしたお金は信託口口座に入金され、返済もそこから行います。なお、借入の返済後に残った収益は受益者に帰属することになります。

信託内借入をする場合には、信託契約で受託者に対して借入権限を付与しておく必要がありますが、子どもや孫を受託者に指定する場合、若さを活かしたアパート経営を始めることもできるということで、大きなメリットといえるでしょう。

家族信託でアパート経営をするデメリット

家族信託を使えばあらゆる問題が解決されるということではありませんし、デメリットもあります。

そもそも家族信託自体、仕組みが複雑で、専門家の利用が必須と捉えておいた方がよいです。にもかかわらず同分野に精通した専門家はそれほど多くありません。また、経営を開始するまで、そして経営を始めてからも、各種申告などに大きな手間を要します。信託財産に不動産が含まれますので登記も行う必要があり、費用も発生します。

こうしたデメリットについても、詳しく説明していきます。

アパート経営と家族信託に精通する専門家が少ない

家族信託に関する実績が豊富な専門家は少ないのが現状です。十分な実績があればノウハウも蓄積されており、スピーディに、実効性のある信託契約を交わすことができるでしょう。
例えば法に関わる弁護士や司法書士、行政書士などの専門家がいますが、家族信託に詳しくないと安心して任せることができません。

さらに、家族信託の目的がアパート経営にある場合、より専門性は高まります。単に委託者の現金や預貯金を管理して欲しいという目的なら、管理行為自体難しいことではありませんが、アパート経営を任せるとなれば、家族信託のルールのみならず、不動産に関する知識も持っていないといけません。
これを単独で対応できる専門家はさらに絞られてしまいます。

専門家に頼る場合、家族信託に精通していることをまずは確認しましょう。その上で、アパート経営に関して信託したい旨を伝えます。両分野に精通していなくても、不動産に強い専門家と連携して対応してもらえるかもしれません。

各種申告など手続の手間が大きい

収入が生まれる信託財産の場合、「信託の計算書」と「信託の計算書合計表」を作成して税務署に提出しないといけません。
※年3万円未満の収入なら申告不要

この義務が課されるのは受託者です。
アパート経営を行った年についての計算書等を、その翌年131日までに提出します。

「信託の計算書」の記載事項の例

  • 委託者・受益者・受託者に関する情報
  • 信託の期間
  • 信託の目的
  • 受益者に交付した利益の内容
  • 受託者の受ける報酬の額
  • 収益と費用の明細
  • 資産と負債の明細

 「信託の計算書合計表」の記載事項の例

  • 提出者の基本情報
  • 作成した税理士の署名
  • 信託財産の種類別(金銭・有価証券・不動産・その他)の情報
    • 件数
    • 収益の額
    • 費用の額
    • 資産の額
    • 負債の額

 参照:国税庁「[手続名]信託の計算書(同合計表)」

さらに、アパート経営からは不動産所得が生まれますので、家賃収入が年間20万円以上になるときは確定申告をしないといけません。この20万円とは“利益”のことではありませんので、結果的に年間を通して赤字になったとしても、家賃収入が20万円以上なら申告が必要です。

参照:国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

信託登記に費用がかかる

不動産が信託財産になる場合、所有権移転登記と信託登記しないとけません。登記手続を経て、当該物件が信託財産であることを公示するためです。登記することで、外観を見るだけでは判別できない“信託財産の別”がはっきりされますし、委託者や受託者の財産と隔離することができます。

ただ、登記をするには登録免許税の納付が必要です。
土地に関しては「固定資産税評価額×0.3%」。
建物に関しては「固定資産税評価額×0.4%」で算出される額を納めます。
※信託財産になったことを公示する信託登記と、所有権が移転したことを公示する所有権移転登記があるが、後者についてはこのとき課税はない

また登記手続は自分ですることもできますが、不備をなくすためにも司法書士に依頼するのが一般的です。依頼先の事務所によりますし、交渉次第でもありますが、登記を依頼するときの相場は数万円~10万円前後といわれています。

受託者にアパート経営のスキルがないと実行できない

家族信託を活用すれば、形式的には経営の権限を他人に渡すことができます。しかし権限を渡すことが目的ではありません。信託の目的は安定したアパート経営の継続です。したがって、権限を得る受託者が、適切にアパート経営をできなければ家族信託の意義も薄れてしまいます。

これはアパート経営に限った話ではありません。しかし不動産事業を任せる場合、委託者にはそれ相応の専門性が求められます。
責任感のある人物、財産管理能力を持つ人物、不動産に対する知識あるいは学習意欲がある人物を受託者に選定しないとリスクが大きくなります。

受託者に一任するのが不安だという場合、弁護士等を「信託監督人」として指定することも検討します。信託監督人は受託者の監督を行うのが職務ですので、大きく間違った方向に進んでしまいそうなときでも、これを是正するよう、機能します。

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