家族信託で信託財産にできる財産とできない財産について解説
信託財産として家族信託をすることで、単に相続による遺産分割をする場合に比べて被相続人の意思通りの結果を実現しやすくなります。
しかし家族信託に関する仕組みを理解していることが重要ですし、何より「信託財産にできない財産とは何か」を把握できていなければなりません。
そこでこの記事では、信託財産とできる財産・できない財産について解説していきます。
目次
信託財産とは
「信託財産」とは、信託契約に基づき委託者から受託者に所有権が移転する財産のことであって、受託者が信託契約で定めた目的や管理方法などにしたがって管理・処分するべき財産のことを指します。
信託法の定義(信託法第2条3項)によると信託財産は「処分できる」ということが要素とされており、当該財産を金銭的な価値に見積もることができるか否かがポイントになります。なお、ここで言う「処分」には譲渡や担保権の設定も含まれています。
そこで金銭はもちろん、土地や建物などの不動産、自動車などその他様々なものが該当する動産、さらに物権や債権も信託財産となり得ます。
なお、後述しますが、1つ注意するべきは、信託財産となることができるのは積極財産だけであって、消極財産は基本的に信託することはできないということです。
そもそも信託とは何か
信託財産について理解する上では、信託とは何かを理解しておくことも大切です。
言葉のまま意味を受け取ると、「誰かに信用を託す」ということになりますが、具体的には、自らの財産を誰か信用できる人に名義変更して託すということになります。
本人は「委託者」、信用され託される人は「受託者」、そして名義変更され託される対象となるのが「信託財産」となるのです。
また信託だと信託財産を受託者が保管するだけではなく、管理・処分から得られた利益を誰か(「受益者」といいます。)のために使います。
この利益を得る受益者が家族であれば家族信託とも呼ばれます。
いずれにしろ、信託においては委託者・受託者・受益者が主な登場人物として出てくることになります。
信託契約が役立つ具体例
実際、信託がどのように使われているのか、具体例を見ていきましょう。
1つは、「特定の人に財産させたい」ケースです。
例えば、ある男性が自分が亡くなってしまった際には専業主婦である妻の生活が心配なので、不動産からの家賃収入は妻に相続させたいと思っていたり、あるいは自分の財産は孫に相続させたいと考えているなど、ご自身の相続財産について特定の人に相続をさせたいと考えている方も少なくないのではないでしょうか。
この場合、特に手続をしなければ、相続人は法律で決められた方々全員になるので、ご自身の意に介さない形で相続されてしまう可能性があります。しかし、例えば前者の例の場合、男性ご自身を委託者兼受益者、受託者をお子さんとし、ご自身が亡くなった際に受益権が奥様に移るという信託契約を生前に行っておけば、自分が亡くなって以降もお子さんに不動産の管理をしてもらいながら、奥様が収益を得ることができる状況を作ることができます。
また、「二次相続が発生しても外部に財産がいかないようにしたい」というケースでも役立ちます。
二次相続とは、一次相続で相続人となった配偶者が亡くなったのちに発生する相続のことをいいます。例えば、遺言だと、「甲財産につき、子Aに取得させ、Aが死亡後はさらにその子(孫)であるBに取得させる」といった内容に法的な効力を期待できません。
遺言で指定できるのは、自分の死亡によって生じる財産の帰属のみだからです。
この点、信託であれば自分を委託者、孫Bを受託者として、受益者連続型という信託契約を締結して、第1受益者を自分、第2受益者をA、第3受益者をBという具合に運用方法を指定することで二次的な財産の行方を本人が決めることができます。
信託財産の特徴
信託財産を受託者に渡すことを「信託譲渡」と言います。信託譲渡が行われると、信託財産は委託者である本人所有の財産ではなくなります。
つまり、相続財産から除かれることになります。
また、信託財産は受託者名義になって、信託の目的の下、受託者が排他的な管理・処分権を有することになり、その管理・処分による利益は受益者に属することになります。
つまり受託者が形式的な所有者として扱われますが、受託者固有の財産にはならず、実質的な所有権は受益者に帰属していることになります。その結果、受益者はもちろん、委託者および受託者が自己破産したとしても信託財産は原則、差し押さえの対象となりません(受託者が破産をする場合、信託財産となっている現金については差し押さえられてしまう可能性があるので注意が必要です)。
これは信託財産とすることの大きなメリットと言えます。
ただし、税制上信託財産は受益者が所有することになる点注意が必要です。つまり受益者に納税の義務が課されることになるのであり、この負担がかかるということも理解した上で信託契約を結ぶ必要があるでしょう。
その他信託財産とすることには以下の特徴があると言えます。
- 委託者が死亡したときのみならず、意思能力を失ったときにも対応し、本人の希望に沿った財産管理・運用を実現できる
- 後見制度だと本人のためにしか財産を利用できないが、信託なら本人以外、家族などのためにも利用できる
- 後見人の事務処理は財産の保存・管理など限定的であるが、信託なら様々な運用方法が選べる
- 遺言だと後継ぎ遺贈(二次相続の指定)ができないが、信託なら本人の意思を反映し続けられる
- 遺言だと相続人全員の合意で本人の意思に反した遺産分割が可能だが、信託なら反故にされずに済む
信託財産にできる財産
信託財産に関する基本的なルールとして、信託法第34条第1項柱書が以下のように定められています。
受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、次の各号に掲げる財産の区分に応じ、当該各号に定める方法により、分別して管理しなければならない。
引用:信託法第34条第1項
同規定から、同法で定める分別管理ができないものであるならば、実務上は信託財産にできないと捉えられます。
ただ、法律上信託財産とできないものが明示されているわけではありません。
そのため金銭や動産、不動産、有価証券、特許権などの知的財産も信託財産となり得ます。
例えば、現金は信託財産用の預金口座を作って分別管理することができます。
当該口座には、信託である旨、そして委託者や受託者をその名称に使うことも多いですが、口座開設しようとする金融機関においてその名称が使えるのかどうかは事前に確認しておかなくてはなりません。また、受託者の変更などが生じた場合にはどうなるのか、といった対応についても確認しておくべきでしょう。
賃貸物件を信託するときにも要注意です。
賃貸物件として収益が生まれる不動産に対し家族信託を活用するケースは比較的多いです。このとき、不動産そのもののみならず、当該物件に係る敷金、その他権利金なども併せて受託者に信託しておくことが大切です。さらに管理会社への費用支払い、固定資産税の納税など維持費に対する現金の準備も必要であるため、その負担にも配慮して一定の原資も信託しておく方が良いでしょう。
細かな取り決め内容などは弁護士にも相談して決定していくと安全です。
信託財産にできない財産
実務上、信託が難しい財産もあります。「預金債権」や「投資信託」「農地」などです。
理論上は信託財産とすることが可能であっても、家族信託の仕組みに対応していない機関とのやり取りが必要な場合、実務上の障害が生じるからです。
預金債権
預金債権は現金とほとんど同じではないのか、と思うかもしれません。しかし預金債権はあくまで債権であり、お金そのものではありません。預金債権の場合、金融機関との契約上、譲渡禁止特約が付されていることが一般的です。そうすると契約の相手方である金融機関の承諾がなければ自由に譲渡することは認められません。
よって、信託契約において「預金」と定めるのではなく、金銭である旨明示するほうが望ましいです。信託契約書にて信託財産として預金債権を指しているのか現金を指しているのかが不明瞭にならないよう留意しましょう。例えば、「現金 金〇〇円」あるいは「預貯金」という文言を使用する場合でも「預貯金 金〇〇円」などと具体的な額を記載すべきです。
投資信託
投資信託に関しても、信託法など、法的にこれを信託財産に組み入れることが禁じられているわけではありません。しかしながら、家族信託に対応している証券会社でない場合には現実的にこれを信託財産とすることはできません。
一部対応している証券会社もありますので、事前に確認をしてから口座開設をするようにしましょう。
農地
農地は、一般的な不動産とは運用方法が異なります。農地の所有権を移すには農地法上の許可が必要ですし、宅地ほど自由な移転はできないのです。
しかも信託を原因とする所有権移転に関して農地法の許可を得ることは、基本的にはできないとされています。
そのため信託財産とすることができるのかどうか、前もって専門家に相談をしておくべきでしょう。
その他信託財産にできない財産
当然とも言えますが、委託者の生命や身体、自由、名誉などの人格権に関しては信託財産とはできません。信託法で定められているような分別管理ができる類のものでもありません。
また、消極財産に関しても要注意です。
消極財産とはつまりマイナスの価値を持つ財産のことであり、借金などの債務がこれにあたります。基本的には信託財産にはなりません。
信託ができてしまうと債務者が変わることとなり、債権者による回収が困難になるおそれがあるからです。例えば資力のない受託者への移転が認められてしまうと、債権者は債権の満額を請求できなくなるかもしれません。
ただし、委託者と受託者の合意に加え債権者の同意も得ることができれば免責的債務引受として、その債務を受託者に移転させることは可能です。
この場合、受託者は大きなリスクが伴うことも理解した上で契約を結ばなくてはなりません。信頼できる相手だからといって安易に受け入れることのないようにすべきです。
信託財産に組み入れることができる範囲は広がっている
信託財産にできる財産・できない財産に関しては、法律に列挙されているわけではありません。ただ、実務上対応が難しい財産は存在していますので、財産の種類だけで判断するのではなく個別に契約内容なども見つつ判断していく必要があります。
しかしながら、徐々に信託契約に対応する機関は増えつつあります。これまで信託財産としての運用が難しかったものでも、信託財産として組み入れることができるようになる可能性はあるでしょう。
家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。