家族信託と商事信託の違いは?
家族信託は、信頼できる家族にご自身の財産の一部、または全部を信託することで、積極的な資産管理や資産運用を行える制度です。
とはいえ、割と最近注目を集めはじめた制度なので、「具体的にどんな制度なの?」と感じる方も多いかもしれません。
今回は、「信託」の基本用語の解説や家族信託と商事信託の具体的な違いについて確認していきたいと思います。
【この記事でわかること】
- 「信託」の仕組みを理解するための用語がわかる
- 家族信託と商事信託の違いがわかる
目次
【家族信託・商事信託共通】信託の基本用語を押さえよう!
信託というと、資産運用等、財産を管理したり、運用したりするイメージを持つ方は多くいらっしゃるかと思います。しかし信託の仕組みについて説明できるかと言われると、難しいと思われる方も少なくないのではないでしょうか。実際、信託ってどんな行為をいうのでしょう。
信託とは、設定した目的に向かって、自分の信頼できるひとに自分の財産を預け、代わりに資産管理や運用を行ってもらうことをいいます。これは家族信託でも商事信託でも同じです。そもそも、家族信託も商事信託も同じ「信託法」という法律に定められた制度で、法的には同じものです。
信託で登場する役割を確認しよう
信託には、「委託者」・「受託者」・「受益者」という用語が登場します。
それぞれどのような意味を持つのか、確認しましょう。
■委託者
自分の財産を委託するひとを指します。委託する財産は、現金や預貯金等の他、土地や建物といった不動産や、株券や国債といった有価証券も含まれます。
信託財産は、「自分の財産をすべて委託しなければならない」という決まりはありません。自分の信託したい財産の範囲は、自分の意思で選択することが可能です。
■受託者
受託者とは委託者から委託された財産を管理・運用するひとのことを指します。信託された財産の管理や運用は、委託者と受託者のあいだで結ばれる信託契約の内容に沿って行われます。
このようなことを信託事務と言います。
委託者に代わり信託財産の管理や運用を行うので、信託契約の内容に報酬規程を設けている場合には、報酬を受け取れるケースもあります。
■受益者
受益者とは、受託者が委託財産を管理・運用した結果生じた利益を得るひとのことを指します。受益者は委託者が指定したひとがなることができます。
なお、財産を信託した委託者自身が受託者の信託事務によって生じた利益を得たいと考えた場合には、受益者を兼ねる場合もあります。
★信託のポイント★
- 委託者は財産を預けるひとのこと
- 受託者は委託者の財産を管理、運用していくひとのこと
- 受益者は財産管理、運用によって生じた利益を受けるひと
信託を利用する流れを確認しよう
信託を利用する場合の大まかな流れは以下のようになります。
①委託者が受託者と信託契約を交わす
信託は委託者と受託者で内容について話し合い、双方が納得のうえ契約することから始まります。
信託契約に必ず盛り込むべきこととしては、以下のような項目が考えられます。
- 信託目的…委託者が信託する目的を明確にします。
- 信託財産の指定…委託者が信託する財産の範囲を決めます。なお、委託できる財産は預貯金等の金銭だけではなく、不動産、株式等の有価証券も対象です。
- 受益者の設定…信託財産を管理・運用して得た利益を誰に渡すのかを設定します。なお、委託者自身を受益者に設定することも可能です。
- 信託期間や終了となる事由の設定…実際に信託を行う具体的な期間や終了となる事由を具体的に決めます。
信託契約の内容は委託者や受託者の意向で大きく異なります。上記以外にも契約に盛り込まれる項目がありますので、あくまでも目安としてお考え下さい。
②信託目的を達成するために受託者が信託財産の管理や運用を行う
委託者と受託者で信託契約を結んだら、契約に定められた目的や期間に沿って受託者において信託財産の管理・運用を行います。
信託財産の運用方法は、委託者がどういった意図で信託契約を結んだかで異なります。例えば、「信託財産の元金を割りたくない」と考えた場合には、リスクの低い活用方法で運用しますし、反対に「積極的に資産運用したい」と考えたときには、元金割れのリスクがあっても利益率の高さを求める運用になります。
また、「介護等病気のために利用したい」というケースでは、不動産売却等の財産処分を行って得た利益を目的達成のために利用することもあります。
③受託者が信託財産を管理・運用した利益を受益者が受け取る
受託者が信託財産を管理・運用した結果、利益が生じた場合、受託者は受益者に設定されているひとに、利益を分配します。
分配時期については、信託契約によってそれぞれです。毎月分配されることもありますし、利益率が高くなったときに信託を終了し利益を得るケースもあります。
④信託目的達成、または終了
信託目的を達成したときや、契約で取り決めた信託が終了となる事由にあてはまった場合、信託は終了となります。
終了時、委託していた信託財産に残余分があった場合には、信託契約で指定された受益者に分配されるか、取り決めの無い場合は基本的に委託者に返還されます。
ざっくりですが信託を利用した場合はこのような流れになります。
②~④については、初めに取り決めた信託契約の内容に沿って行われるので、信託契約をどのような内容にするのかが非常に重要です。
家族信託と商事信託の違いを確認しよう
家族信託と商事信託は、同じ「信託」ではありますが、一般的には運用方法等が大きく異なります。
特に大きく違う点として以下のようなものがあります。
- 受託者の設定
- 信託報酬
- 信託財産
- 信託契約の内容
具体的にどのような違いがあるのか確認していきましょう。
家族信託と商事信託の違い①受託者の設定
家族信託と商事信託の違いとして挙げられるのが、受託者が営利目的で信託財産の管理や運用を行っているかどうかです。
家族信託は営利目的ではない場合がほとんどです。
ただし、家族信託において受託者となる法律的な条件はそこまで厳しくありません。成人しており、委託者が財産を任せてもいいと思えるひとで、受託者が委託者の意向を受け入れれば、信託契約は成立します。
一方で商事信託は、通常は、受託者が営利目的で信託財産の管理や運用が行います。もう少し具体的にいうと、銀行等の金融機関、信託会社が受託者となって顧客の資産管理や運用を行う代わりに対価を得るということです。
信託を生業とするため、商事信託は許可なく行うことはできず、内閣総理大臣の免許、または登録を受けることは必要です。加えて、申請すればどんな会社でも行えるわけではなく、株式会社であり、かつ信託業法で定められている免許の基準を満たしている必要があります。
家族信託と商事信託の違い②信託報酬
意外に思われるかもしれませんが、信託を行う場合の受託者の報酬設定は法律で明確に定められていません。そのため、家族信託のように個人間で結ぶ信託契約では、受託者の報酬規程を設けていないケースは少なくありません。
対して商事信託は営利目的で信託業務を行うわけですから、必ず信託報酬の設定をしています。
商事信託の信託報酬は、どのような信託商品を利用するのかで異なります。
商事信託の場合、受託者である金融機関等には商品についての説明義務があります。そのため、信託報酬の設定やリスク等を、契約を結ぶ前にしっかり確認した方が良いでしょう。
家族信託と商事信託の違い③信託財産
家族信託と商事信託の違いとして、受託者に委託できる信託財産の範囲です。
家族信託では、委託者と受託者が合意すれば、基本的にどのようなものであっても信託することができます。
しかし、商事信託の場合、委託できる信託財産か限られ、「金銭」のみであることが多いです。信託商品の中には不動産信託もありますが、この不動産も自宅で利用している土地や建物を委託するのではなく、賃貸不動産等が対象です。
家族信託と商事信託の違い④信託契約の内容
家族信託と商事信託の違いとして信託契約の自由度が挙げられます。
家族信託は、委託者と受託者が話し合いのもと契約の内容を自由に決めることができます。
これは、家族信託を利用する大きなメリットといって良いでしょう。
一方で商事信託は、金融商品です。そのため内容もある程度決まっており、顧客ひとりひとりのニーズに合わせて契約内容を細かく変更することが難しいです。
★家族信託と商事信託の違い★
- 商事信託と家族信託の大きな違いは「受託者」にある
- 法律上信託報酬の規定はないが商事信託では必ず設定される
- こまやかに自分のニーズに合わせて契約を結べるのは家族信託
個人で結ぶ家族信託と金融機関等の「家族信託」商品に違いはあるのか?
最近では金融機関の信託商品にも「家族信託」の名称が使われているサービスがあります。
このサービスは、個人間で結ぶ家族信託と同じ仕組みなのでしょうか?
結論から言えば、個人間で結ぶ信託と金融機関等が展開する「家族信託」商品やサービスは別物です。
金融商品の展開する家族信託サービスの受託者はあくまで金融機関等です。
委託者は、金融機関等に一時預かり金という名目で信託財産を預け入れます。
その信託財産を金融機関が管理・運用を行い、受益者に設定した方に配当金を渡したり、委託者が亡くなった等で、信託が終了となったりした場合に契約で「受取人」に指定された方へその信託財産を渡すような仕組みです。
商品の内容にもよりますが、個人間で結ぶ家族信託より費用が高いことを念頭に入れた方が良いでしょう。
まとめ
今回は家族信託と商事信託の違いについて確認していきました。
家族信託を考えた場合、自力で行うのか、弁護士等の専門家に相談した方がいいのか、それとも銀行の金融機関等に相談すれば良いのか迷ってしまうと思います。
自力で行った場合、信託契約を書面で交わさなかったり、信託契約の内容に不備が起こりトラブルになったりする可能性があるのであまりお勧めはできません。
となると、専門家と金融機関どちらに相談すればいいのでしょうか。
これは、どのような信託契約を結びたいのかによって大きく違います。
自分に適した家族信託にしたいと希望する場合には、弁護士等の専門家に依頼した方が良いと思います。
信託契約作成時のアドバイスはもちろん、途中で「信託契約の内容を変更したい」等のトラブルが発生したときも、対応することができます。
弁護士法人えそらは、ご相談者さまが持つ理想が現実にできるようを努めております。家族信託の契約のお悩みはもちろん、信託中にトラブルが発生した場合も、ご相談者さまに寄り添い、細やかなサポートを行なっています。お悩みの際は、一度お気軽にご相談ください。
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