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家族信託をしたときの確定申告について ~納税義務者や税務署への届出~

所得が発生しているのなら、確定申告等によりその内容を税務署に申告し、所得の大きさに応じた所得税を納めなければなりませんし、贈与により財産を受けたときにもその価額に応じて納税をしなければなりません。
家族信託では委託者が信託財産を受託者に託し、受託者がその信託財産の運用をした結果、そこから生まれる利益を受益者が受けとるという流れになっていますつまり、受益者は受託者の財産運用により所得を得ることになりますので、所得税に関わる制度への理解も持っていなければなりません。
ここで家族信託をしたときの確定申告の必要性、納税義務者は誰なのか、必要な手続は何か、といったことを整理していきましょう。

確定申告をしなければならない人物

家族信託で締結される信託契約に基づき確定申告をしなければならない人物とは誰でしょうか。
信託財産を元々所有していた委託者は、単に財産の処分や管理を依頼するだけの人物であるため、確定申告および納税の義務は課せられません。
では受託者はどうでしょうか。信託契約では、信託財産の所有権は委託者から受託者へ移ることになりますし、受託者は信託財産を管理・処分利益発生させます一見すると所有者として、利益を発生させた者として納税義務が生じるようにも思います。
しかしながら受託者が発生させた利益は受託者自身が受け取るわけではなく、信託契約によって受益者に帰属することになっているので、受託者には課税は生じません。
家族信託では、確定申告をしなければならない人物は、受益者となるのが原則であり、受託者課税の原則ともいわれています。受益者は信託財産から生じた1年間の利益につき確定申告を行い、その大きさに応じた納税の負担を負わなければなりません。

ただ、家族信託では委託者と受益者が常に別人であるとは限りません。以下では委託者と受益者が一致する・一致しない具体例を挙げ、確定申告義務者について説明をしていきます。

委託者と受益者が一致している事例

不動産経営を家族に任せるといった内容の信託契約が締結されるのはよくある例です。委託者であるAが賃貸不動産を管理していたものの、高齢で運用が難しくなってきたなどの理由から長男Bに経営を譲るケースなどです。
ただ、委託者自身も老後の生活費が必要ですので、不動産経営から得た利益を受け取りたいというニーズを満たすため家族信託が利用されるのです。

Aを委託者兼受益者、Bを受託者とする不動産を対象とする家族信託を利用することによって不動産の名義自体はAからBに移るため、加齢などによりAの判断能力が衰えたとしても問題なくBが不動産の管理・処分を行うことが可能になりますAとしても自覚することが難しい自身の判断能力低下に備えてあらかじめBと信託契約を締結することによって、老後の生活費や医療費・介護費などを確保しやすくなります。

そしてこの場合、委託者はA、受託者はB、受益者はAとなり委託者と受益者が一致しています(自益信託といいます。)。このときAは委託者である立場を理由に確定申告を拒むことは当然でき、信託前と同様に不動産所得につき確定申告を行わなければなりません。

Bが当該物件を売却した場合の売却益についても、別の者が利益を受ける旨契約に定めていなければAが譲渡所得税についての申告をしなければなりません。信託不動産を売却した場合、収入は受託者の口座で管理されることになりますが、受益者Aが確定申告を行う点には注意が必要です。

委託者と受益者が一致していない事例

委託者と受益者が一致していないケースでもこれまでと同様に考えれば良いです。

例えば不動産を所有しているAが、当該不動産を孫Bに譲りその利益を学費等に充てて欲しいと考えたとしましょう。しかしながら孫にすべての権限を譲るのには不安があるため、Bの親Cに管理を任せたいと考えています。
これを実現するためには信託契約の締結が有効です。Cに不動産の経営や収益の管理を任せ、形式上はCの口座に不動産収入が入ることになりますが、その利益を受けることになるのはBです。つまり委託者がA、受託者がC、受益者がBとなり委託者と受益者が一致しません。
委託者Aが確定申告をする必要はなく、受益者である孫のBが確定申告を行うことになります。

家族信託に際して必要になる届出

確定申告のほか、信託契約の内容次第では届出が必要になることもあります。

家族信託を始めるタイミング、家族信託が終わるタイミング、契約内容を変更するタイミングなどで届出を行う必要が出てくる可能性があります
届出の内容や必要性の判断については後述で詳しく説明しますが、基本的にはいずれも受託者が必要書類を作成・準備して手続を行うことになります。信託の内容や収益の状況に関しては受託者が一番把握しているためです。

家族信託開始時の届出

家族信託を開始した場合、“その月の翌月末まで”に、税務署に信託に関する受益者別調書と合計表を提出します。その書類に記載されるのは、信託財産の種類や所在場所、価値といった情報です。

しかしながら、①委託者と受益者が一致している、②信託財産の相続評価額が50万円以下、の場合には届出の必要がありません。

実際のところ多くの家族信託では委託者と受益者が一致しています。親が子に財産運用を任せ、親自身が受益者となるというケースです。財産を管理する人物が変わっても利益を受ける人物が変わらなければ納税義務者の変動もありませんので、税務署としてはわざわざ報告を受ける必要がないので、このような場合には届出が不要とされています

家族信託の内容を変更したときの届出

家族信託の内容が、契約履行中に変更されることもあります。
このとき、“契約内容変更の効力が発生した月の翌月末”までに、家族信託開始時と同じく受託者が信託に関する受益者別調書と合計表を税務署に提出します。

ただ、家族信託開始時に求められる届出と同じ考えに基づき、「変更後も委託者と受益者が一致している」「変更後も信託財産の相続評価額が50万円以下である」という状況であれば届出は不要です。
逆に言うと、親Aが子Bに財産運用を任せて受益者をAに設定していたところ、「これからは信託財産から発生した利益は私の配偶者Bに与えるものとする」旨の変更が生じたのなら届出が必要になりますので忘れずに行うようにしましょう。
信託財産の内容を変えて価額が大きな財産を扱うようになった場合にも要注意です。

信託期間中、毎年提出するもの

信託期間中、毎年提出するものとして、受益者の確定申告があります。
そのほかに、1年の信託財産の収益が3万円以上(計算期間が1年未満の場合には1万5000以上)の場合には、受託者毎年1月31日までに「信託の計算書」と「信託の計算合計表」を提出しなければなりません。

家族信託終了時の届出

家族信託の開始時、あるいは契約途中で届出を行ったのであれば、家族信託が終了したときにも届出をしなければなりません。

まず、受益者が死亡し、信託が終了した場合には、受託者は受益者別調書を提出しなければなりません。
次に受益者死亡以外の理由で家族信託が終了した場合において、委託者兼受託者ではないなどの理由で信託財産が受益者以外の者に戻ることになるときは、やはり受託者は受益者別調書の提出を行う必要があります。

このように税務署が求めているのはあくまでも財産の移転があったかどうかですので、終了時点で残余財産がないのであれば届出は不要です。また、信託財産の相続評価額50万円以下であるケースでも届出をする必要はありません。

家族信託後の確定申告における注意点

確定申告は税制に基づく手続です。家族信託の仕組み自体に詳しくても、税務に詳しくなければ全体として適切な措置を取ることは難しいです。そこで確定申告に関連して、以下の点に注意するようにしましょう。

家族信託を利用することによる節税は期待できない

第一に、節税を目的に家族信託は行わないようにしましょう。家族信託は便利な制度であり、仕組みを理解して有効活用することで、遺言書や成年後見制度を使う場合よりも柔軟な財産運用を実現することができます。しかし節税効果が大きくなるわけではなく、相続税を下げる目的などで利用されるものではありません。

損益通算はできない

節税効果が望めないことの理由の一つでもありますが、家族信託を利用したときの不動産経営では「損益通算ができない」ことは知っておくべきです。

損益通算とは、確定申告等において同一年における赤字の所得をほかの黒字の所得から差し引くことを言います。
本来、不動産の賃貸から得られる所得に関してたとえ赤字になってしまっていたとしても、毎年11日~1231日までに得られる他の所得から、不動産分の損失を差し引いて申告することができます。そのため全体としての所得が大きくても不動産運営に係るコストが大きい場合には確定申告する際の、利益は小さくなります。A物件では黒字100万円、B物件では赤字100万円という状況なら損益通算により相殺され、不動産所得は0円となるのが基本です。

しかし家族信託に基づく財産運用の場合、不動産所得の損失は「生じなかったものとみなす」とされているので、損益通算による黒字と赤字の相殺ができません。そのため黒字と赤字の物件の両方がある場合、割合税負担が大きくなってしまいますので要注意です。

申告・納税の義務者には手間と金銭の負担がかかる

家族信託という制度は、受益者として定められた者は、自ら難しい財産運用を行うことなく利益を受けることができる点でメリットがある制度です
しかしながら他方で、受益者は、確定申告や納税は行わなければならず、その分の負担がかかることは理解しておかなければなりません。

信託財産から不動産所得を得ているのであれば不動産所得に関する明細書の他、信託財産に関する明細書も別途作成して確定申告書類に添付する必要があります。こういったことは確定申告の作業に慣れていない方からすると大変な作業です。
そこで家族信託を行う場合のみならず、確定申告に関しては税理士に依頼して書類準備から確定申告書の作成までを任せるのが通常です。特に、家族信託は特有の税務手続も含まれているので、その分野に精通した専門家に依頼をすることをおすすめします。

確定申告の期限は毎年315日が原則

確定申告は、所得が発生した翌年の315日までに行うのが原則です。令和元年・令和2年に関しては新型コロナウイルスが流行した問題から延長がされていたものの、基本は延長がされないものと考えておくべきです。
例外的に個別の延長申請が認められることもありますが、これが認められるのも災害が発生してやむを得ない理由により間に合わない状況に限られます。「やり方がわからなかったから間に合わなかった」という理由は通りませんので注意しましょう。

ペナルティが課せられる可能性がある

確定申告を行わない場合、本来の納めるべき税額に「無申告加算税」を加算した額の納税を求められます。期限から1月以内に自主的にその旨伝えていれば無申告加算税は課されなくなりますので、間に合わない場合であっても迅速に対応することが重要と言えます。

また、申告をしないことに対してではなく、納税をしないことに対しては「延滞税」の加算が行われます。納税が遅れるほど延滞税は増していきますので、その意味でも早急な対応が必要と言えます。

なお申告も納税もしないときには無申告加算税と延滞税の両方が加えられることとなりさらに税負担は増してしまいますので注意しましょう。

家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。