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家族信託契約を結ぶベストなタイミングとは? 時期に遅れたときのリスクや効力発生日との関係など

高齢化が進む日本では、認知症などにより本人の判断能力が低下した場合に備えていくつかの制度、法律上の保護規定が設けられています。しかし有効な制度も適切に利用できなければ意味がありません。
家族信託も認知症対策に有効な手段ですが、その恩恵を受けるにはベストなタイミングで契約を締結しておく必要があります。
そこでここでそのタイミングについて解説し、タイミングを逃した場合の問題点などについても説明をしていきます。

家族信託の契約を締結すべきタイミングについて

家族信託を始めることで、本人(委託者)の財産の管理権限を別の人物(受託者)に与え、その受託者による財産運用によってさらに別の人物(受益者)が利益を受けることができるようになります。
家族信託の多くでは委託者と受益者を一致させるように契約で設定しています。委託者が、自らのために財産の管理運用をして欲しいと受託者に管理等を依頼する形になります。
この契約を交わしておけば、委託者の判断能力が認知症などにより低下してしまっても、適切な財産管理等を継続することができるのです。

この目的を果たすという観点から、家族信託の契約を締結すべきベストなタイミングについて見ていきましょう。

検討はできるだけ早い時期に始める

まず言えるのは、早いうちから始めてしまって良い、ということです。
主に問題となるのは“始める時期が遅くなってしまった場合”であって、早く始めることによる問題は基本的にはありません。

少なくとも家族信託を行うかどうか、契約内容についてなど、検討はできるだけ早いうちに始めておくことが望ましいです。
検討をすることにデメリットはありませんし、家族信託を始めようと思い立って即座に始められるものでもありません。準備期間を経て信託が開始されますので、必要に迫られて急いで対応するといった事態は避けた方が良いでしょう。

家族信託を検討するにあたっては、大きく次の2点に着目することになるでしょう。

  1. 信託財産の内容
    家族信託契約により認知症対策とすることができるのは、「信託財産」に組み入れられた財産のみです。後見制度のように本人の行為を広くサポートするわけではなく、家族信託では財産を預けてその財産に限り契約の範囲内で運用を行うことになるからです。
    そのためどの財産を信託財産とするのか、よく検討する必要があります。例えば委託者が所有している特定の不動産に絞って信託をするのか、それともさらに預貯金の管理まで任せるのか、家族信託を行う目的なども考慮して設定していきます。
  2. 誰を受託者にするのか
    家族信託のキーマンは受託者です。認知症により判断能力を失った後も契約通りに受託者が仕事をしてくれなければ望む結果は得られません。そのため信頼できる家族など身近な方を探す必要があります。
    また、信頼できることに加え、信託財産の管理運用をするだけのスキル・知識を持った人物であることも非常に重要です。受託者自身はきちんと義務を履行しようとしているものの、やり方がわからず適切に財産を管理できないという事態も起こりかねません。特に株式や不動産などを信託財産とし、積極的な資産運用をして欲しいのであれば専門知識を持った人物に依頼することが大切です。

契約締結は認知症になってからでは遅い

信託契約の締結は、遅くとも認知症になる前のタイミングで行わなければなりません。
判断能力が低下してしまってからでは契約を有効に結ぶことができなくなるからです。

法律上契約の締結には「意思能力」が要求されていますこの「意思能力」とは行為の結果を判断するに足るだけの精神力のことをいいおよそ10歳程度の精神能力に相当すると言われています。この「医師能力」は、一般的にいわれる「判断能力」と完全に一致するわけではありませんが、ほとんど重なり合うものとして考えて良いでしょう。

実際には意思能力について“あり”、“なし”できれいに区分できるものではなく、グラデーションがあります。そのため家族信託の契約を締結するために必要な意思能力が残っているかどうかの判断も簡単ではありません。
また、いつ認知症に罹患するかもわかりませんし、その他様々な原因で突然判断能力を失うこともあり得ます。

そう考えると、家族信託契約を締結すべきタイミングの終期を知ることはできないため、有効に契約締結ができる早いうちに対応することがベストと言うことができます。

「あとになって気持ちが変わるかもしれない」「早めに家族信託契約を締結して後悔することにならないだろうか」と不安を抱く方もいるかもしれませんが、後述するように、事情に応じて後から契約内容を変更することも不可能ではありません。
また、契約書に“事情の変更があれば柔軟に契約の内容は変更できる”などと記載しておくとより安心です。

判断能力の有無の判定方法

意思能力に関して押さえておきたいのは、問題とされている行為や契約に応じて、個別にその有無が判断されるという点です。

例えば同じ「契約を締結する」という行為であっても、「家族信託を始める」という内容の信託契約もあれば、「日用品を購入する」という内容の売買契約もあります。
通常、後者の契約の方が単純です。家族信託から生じる結果を認識するのと、日用品の購入から生じる結果を認識するのとでは難易度に差があります。そのため意思能力につき争いが生じた場合、後者では意思能力があったと評価されやすいのに対して、前者では意思能力がなかったと評価されやすくなるのです。
もちろん一概には言えませんし、その他様々な事情を考慮して評価を受けることとなりますが、おおまかな傾向としてはこのように言うことができます。

家族信託における判断能力の判定

家族信託の契約における意思能力の判定ですが、ポイントは「公正証書を作成する場面において公証人にどう判断されるか」にあります。

家族信託のような重大な契約を締結する場合、公正証書として契約書を作成し、できるだけ契約に係るリスクを少なくするのが一般的です。そして公正証書の作成は、公証役場にて、公証人の面前で行うことになります。
よって、有効に公正証書を作成し、有効に家族信託を締結するには、公証人から見て意思能力があると評価されなければなりません。

公証人に意思能力を認めてもらうための基準となるのはの点です

  • 自分の名前や生年月日、住所を言える
  • 身体的に困難な場合を除き、契約書に署名ができる
  • 家族信託の概要、メリットやデメリットが分かる
  • 誰にどの財産を託そうとしているのかが分かる

 公正証書の作成における意思能力は、あくまで医師の診断に基づくわけではなく、公証人の判断に基づきます。医師の診断書も有力な証拠とはなるものの、これが直接の決め手になるわけではありません。そのため「医師に認知症であるとの診断をされていないから大丈夫」ということにはなりません。

公正証書の作成にあたっては、あらかじめ公証人としっかり打ち合わせをして、事前に判断能力についての評価も行っておいてもらうことが大切です。

「契約締結日」と「効力発生日」は一致するとは限らない

契約を締結した日に家族信託をスタートさせなければならないわけではありません。
契約の締結は家族信託の準備であり、「契約締結日」=「契約の効力発生日」になるとは限りません。

ただ、基本的には信託契約締結と同時に効力が生じます。そのため別日から家族信託を始めたい場合にはその旨契約で定める必要があります。

判断能力が低下してから効力を生じさせることも可能

契約締結日と効力発生日を一致させたくない場合、条件を付して効力が発生するように設定すると良いです。信託法でも、条件を付して家族信託を開始させることは可能である旨明記されています。

 

信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。

一部引用:e-Gov法令検索 信託法第4条第4

 

そこで、始期として具体的に「〇年〇月〇日」としても良いですし、「○○をしたら」と停止条件(効力を生じさせるための条件)を定めても良いです。例えば「委託者が認知症になったと医師による診断を受けたとき」とすれば、家族信託に備えつつ効力の発生日をある程度調節することができます。

ただ、こういった条件を付す際には注意が必要です。
どのタイミングで条件が成就したのか一目瞭然にしておかなければ、信託を開始するタイミングに争いが起こってしまうためです。
また信託を始めるにあたり法務局や金融機関での手続も行うことになるのですが、これが進められない可能性があるからです。

また、認知症になったら、と定めた場合であってもどのタイミングで認知症といえるか判断基準が明らかでない、という問題もあります。
医師によって診断基準に差があったり、診断を受けていないと認知症になっていても家族信託を始められなかったりすることもあります。
診断内容で効力発生を左右するのではなく「判断能力が低下したら」と記載することで実態に即した内容にもできそうですが、条件が抽象的だと判断が難しく、トラブルの原因にもなってしまいます。

こうした種々の問題がありますし、契約締結日と効力発生日をずらしたいのであれば、家族信託に強い専門家に相談してアドバイスを受けるようにしましょう。

事後的に信託財産を追加することも可能

家族信託をスタートさせた後で、財産を追加で信託することも可能です。「いきなりすべての財産の所有権を与えるのは不安」という場合、小さく信託を始める方法も検討してみましょう。

この追加信託は、委託者と受託者の合意に基づかなければなりませんので、受託者との相談を通して納得が得られている必要があります。
両者の合意があれば、後から金銭を追加することも、不動産を追加することも可能です。

タイミングを逃すとどうなるのか

次に、信託契約をすべきタイミングを逃してしまった場合どうなってしまうのかについて解説していきます。ここではその時期を「判断能力がなくなってしまった後」として説明します。

財産凍結が起こる

口座名義人の判断能力がなくなったとき、銀行は口座を凍結させます。その後は家族であってもお金を下ろすことは困難で、本人の生活に必要な費用の捻出に家族の方が圧迫されてしまうでしょう。銀行での手続を経て本人のための費用を請求することも不可能ではありませんが、大変な作業となります。
この点、家族信託をすでに始めていれば、本人の介護費用や施設利用料、医療費、納税、生活費などもスムーズに支払うことができます。

本人が不動産を所有している場合にも、家などを処分できないという問題が生じます。
判断能力を失った本人は売却をしたり賃貸に出したりするための契約を締結することができません。空き家として放置され、無駄に維持がかかること、さらに不動産としての価値が下がるという問題も生じます。
しかし家族信託の活用ができれば、受託者の判断で適切な処分ができますし、その費用を使って委託者の生活費に充てることもできます。

本人の財産につき積極的な運用ができなくなる

認知症対策になるのは家族信託だけではありません。「後見制度」もあります。

後見制度では、法律行為等が1人でできなくなった本人に代わり、後見人等がサポートに入ります。このうち法定後見制度では、家族信託のように本人と契約を交わして事前に備えておく必要はなく、判断能力が低下した際に家庭裁判所に申し立てを行えば、裁判所が後見人を選任してくれます。

ただし後見人等はあくまで本人のサポート役であり、後見制度は本人が損をしないように保護をするのが主目的です。そのため本人の財産に対し現状維持を目指すものであって、積極的にこれを増やすなどの行為を後見人が勝手にすることはできません。

家族信託では、契約に定めていれば積極的な資産運用もできます。投資目的で株式や不動産を所有しており、その運用を任せたい場合には家族信託が向いています。

その他家族信託の設計次第で様々な応用を効かすことができます。将来の財産管理を心配している方、細かく管理方法等を定めて最適な形で家族に財産を渡したい方などは早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。