家族信託契約書の書き方を解説!記載すべき事項や注意点を押さえよう
自分の死後や老後に備えて財産を信頼できる家族に託し、管理処分を任せるための制度として家族信託があります。家族信託は、財産の管理処分制度として非常に有用ですが、仕組みが複雑であり、また取り決めた内容を契約書に落とし込んでいく作業も行っていく必要があるため、少々荷が重い作業かもしれません。
そこで今回は、家族信託契約書の書き方として、記載すべき事項や注意点を解説していきますので、是非参考にしていただければと思います。
目次
家族信託契約書に記載すべき事項
家族信託契約書には、少なくとも「契約の趣旨」、「信託の目的」や「信託の対象となる財産」、そして「契約の当事者」、「受託者の権限」、「信託の終了事由」などは盛り込むようにしましょう。
各事項について詳しく解説していきます。
契約の趣旨
この契約書において締結する契約が信託契約であることが分かるようにするために記載します。
信託の目的
「信託の目的」の定めは、信託契約における根幹となる非常に重要な部分で、委託者の立場からすれば、家族信託を使うことで何をしたいのか、なぜ家族信託を結ぶのかについて記載する箇所です。他方、受託者の立場としては、ここで定める目的に従って財産の管理および処分などを行い、その目的を果たすための行為を行う指針・判断基準のような位置づけになります。
そのため、信託の目的を定めることは委託者にとっても受託者にとっても大切なことであり、契約書に定める際には、双方の立場に立って検討することが大切といえます。
例えば、本人が自らの認知症対策として家族信託契約を締結する場合、以下のように信託の目的を定めることが考えられます。
「本件信託は、委託者の判断能力が低下した後において、受託者の適切な資産管理・保全・運用・処分により、受益者が健康で文化的な生活を送ることができるようにすることを目的とする。」
また、このような単一の目的だけでなく、
「本件信託は、受託者の適切な資産管理・保全・運用・処分を通じて、受益者の生活に必要な資産を確保及び給付するなどして、受益者の生活の安定を図るとともに、円滑な資産の承継を目的とするものである」
というように複数の目的を定めることも可能です。
信託財産の内容
どの財産を信託財産とするのか、こちらも非常に重要な事項です。
契約の客体となる存在ですし、他と区別できるように明記しておかなければなりません。例えば、不動産・預貯金・現金・有価証券などの分類がありますが、アバウトに財産の種類だけを記載するのでは不十分です。不動産であれば、登記されている所在地と全く同じに記載することが必要です。
信託契約の効果は、信託財産として設定した財産にしか及ばないことを認識し、わかりやすく記載していきましょう。
ただし、契約書本文にて本文の体裁を守ったまますべてを記載したのでは見やすさを欠いてしまうケースもあるでしょう。その場合には「本契約で定める信託財産については、別紙1に記載。」などと別で記載する旨を明記し、別紙にて表やリスト形式など好きな形で信託財産をまとめておくことが可能です。
契約の当事者
信託契約に限らず、契約一般では当事者の定めがなければいけません。特に家族信託は登場人物が多く、複雑な法律関係が構築されることになります。わかりやすく、誰がどの立場にあるのかを明記していきましょう。
なお、委託者とは「財産の管理を任せる人」のこと、受託者とは「財産の管理を任される人」のこと、受益者とは「受託者による財産管理により利益を受ける人」のことです。信託契約においては、少なくともこれら3者が登場することになります。
さらに、受益者が「現に存する場合」に信託契約で定められたとおりの信託が行われているか監督するという役割の信託監督人、受益者として将来生まれてくる子どもが指定されている等受益者が「現に存しない場合」に受益者に変わって受益者の持っている権利を行使することができる信託管理人、受益者が幼い場合などにおいて受益者の持っている権利の一切を代理で行使する権限が与えられている受益者代理人、受託者に何らかの事情があり財産管理ができなくなった場合の備えとなる後継受託者なども定めることができます。必要に応じて設定すると良いでしょう。
当事者を明記する際、個人を特定できる状態にしておく必要があるため、氏名のみならず、住所・生年月日・職業も記載しておきます。
受託者の権限
契約に従い家族信託がスタートすると、受託者に権限が移り、以降の財産管理を任せることになります。受託者は原則として、①管理行為、②処分行為、③権利取得行為、④債務負担行為、⑤訴訟行為を行う権限を有しています。しかし信託の目的を定めるだけでは、これらの権限を具体的にどのように運用をしていくのか不明瞭です。
そこで、受託者が「できること」「できないこと」を明記しておきましょう。家族構成や将来のことなども広く視野に入れ、適切な権限の設定をしなければなりません。
受託者には信頼できる人物を置くことになりますが、将来にわたり、確実に委託者の意図通りの管理運用をしてくれるとは限りません。こうした不安をなくすためにも権限の定めは大切ですし、心配ならさらに信託監督人も設けておくと良いでしょう。監督人と受託者との関係性にも配慮しつつ、監督人には公正な立場で監視してくれる人物を置くべきです。
委託者には長男を設定して基本的な財産管理は任せつつ、弁護士などの専門家を信託監督人に選任するというケースはよくある例です。
信託の終了事由
信託契約に関して細かく設定し、良好なスタートを切ることはとても大切です。しかしさらにその先も見据えて、「いつ家族信託を終わらせるのか」「どのような場合に終了させるべきか」という観点も大切です。
よくある信託の終了時期は「委託者が死亡した時」です。
しかし、たとえば「自分が判断能力を欠いたときに備えて家族信託を行うが、すでに配偶者には認知症の兆候が現れているため、自分(A)が死亡した後も配偶者(B)のために信託財産の管理を続けて欲しい」というニーズがある場合には、委託者が死亡して以降もさらに継続させる旨を明記する必要があります。具体的には「本信託は受益者A及びBの死亡により終了する」と記載することになります。
その他家族信託契約書に盛り込む条項
実際の家族信託契約書には、上で挙げた条項以外にも多数の定めを置くこととなります。
例えば「信託が終了した後の財産をどうするのか」「信託で行うことになる事務を特定の人に代行させることはできるのか」「契約内容の変更はどうやって行うのか」「事務処理に要する費用が信託財産を上回るときの負担はどうするのか」などです。
もちろん、これだけに限らず当事者間で定めておきたいことがあれば、契約書に盛り込んでおきましょう。ただし、当事者間の合意があれば何でも定められるというわけではありません。法律上、超えてはいけないラインはあることには注意が必要です。例えば、強行法規と呼ばれる法律上の規定には反することができませんし、他人の財産を勝手に信託財産に含めるといったことも許されません。契約内容をどこまでカスタマイズできるのかはあらかじめ弁護士に相談して確認しておくことをおすすめします。
契約書の作成にあたって注意すべきポイント
家族信託契約書を作成するにあたり、以下の点には注意するようにしましょう。
ひな型の内容を適切に調整すること
契約書作成一般に言えることですが、ひな型をそのまま流用することはおすすめしません。ネットで探せば、契約類型ごとにひな型を見つけることもできますが、これはあくまで参考程度に留めておかなければなりません。
なぜなら、ひな型は基本的な事項につきよくある内容を記載してあるだけだからです。信託財産や人間関係、その他様々な状況が契約内容に影響してくる家族信託では、個別事情に応じたアレンジが大切になってくるのでひな型をそのまま使って対応することは困難だと思います。
ただ、このことを踏まえた上で有効活用すれば効率的な契約書作成ができるでしょう。最低限盛り込むべき条項がすでにまとめられていますし、本文とは別の前文や後文、当事者の記入欄や押印箇所、契約締結日に関する記入欄などはそのまま使えるケースも多いです。使えるところは流用し、本文については一つひとつ必要性を吟味し、調整を加えていくという姿勢が大切です。
公正証書化すること
家族信託は長期にわたり契約内容の履行を続けていくことになります。その過程では契約書内の条文につき、解釈を巡って争いが生まれる可能性もありますし、改ざんや紛失などの問題が出てくることもあり得ます。
そこで家族信託の契約書を公正証書として作成することをおすすめしています。
公正証書として作成する事のメリットとして、公証役場で原本を保管してくれるので改ざんや紛失の心配がないという点の他、契約内容について当事者の認識の共有が可能になることが挙げられます。公正証書を作成する際には、公証人が当事者の面前で契約内容を読み上げてくれます。これによって当事者間で契約に関する認識をしっかり共有することができ、誤解のない契約の締結を行うことができるのです。また、信託財産を管理するための口座を作成する際には金融機関から公正証書の提示を求められることがありますし、信託財産の中に不動産がある場合には、その登記のために公正証書がと役立ちます。
公正証書を作成することは費用や手間が少しかかってしまいますが、特に大きな信託財産を長期間扱う場合には「公正証書化が必要」と認識しておいた方が良いでしょう。
なお、自己信託(委託者と受託者が同じである信託)の場合には、公正証書にしなければ有効な信託契約とならないので注意が必要です。
家族信託の利点が活かせるように内容を定めること
まず、そもそも家族信託を利用すべきなのかどうか、どのように利用すべきなのか、といったことから検討しなければなりません。
当然ですが、家族信託の制度を使えば常に最適な結果が期待できるというわけではありません。家族信託には多くのメリットがある反面、適切な形で利用できなければデメリットも生まれてしまいます。
例えば、種類によっては家族信託では扱えない不動産があったり、税務申告の手間が増えてしまったり、かえって税務上の不利が生じることなどがあり得ます。
また、契約内容によっては、特定の人物に限っては利益が大きい一方で別の当事者には不利益が生じてしまうという不公平が生じたり、家族信託により何十年もの間、契約に拘束される方も出てきたりします。
つまりよく仕組みを理解しないまま家族信託契約を締結してしまうと大きな不利益を被る可能性があるのも事実なのです。
そこで、現在の当事者間の関係性が良好であり信託契約に合意が得られそうであったとしても、専門家の意見を取り入れつつ本当に信託契約の締結に問題がないのかということを全員で確認しつつ進めていく必要があります。
家族信託に強い専門家に相談すること
家族信託契約の締結、家族信託契約書の作成にあたっては専門家のサポートが欠かせません。
相談先の候補としては、「行政書士」や「司法書士」、「弁護士」などが挙げられます。
契約書作成の依頼に限れば行政書士でもカバーできます。コストも比較的少なくて済むでしょう。しかし書類作成以外の業務については、幅広い相談・依頼を行うことはできませんので留意しましょう。
司法書士であれば登記手続に関する依頼も行うことができます。司法書士は登記の専門家なので不動産を含む契約の場合には司法書士のサポートが必要になることもあるでしょう。ただ、業務範囲が限定的である点は行政書士と同様です。
弁護士の場合、あらゆる法律相談が可能です。対応可能な範囲が広く、書類作成から関係人とのトラブル対応、訴訟問題にまで対処してもらえます。ただコストが高くなる傾向にありますし、家族信託に実績のない弁護士もいますので弁護士であれば常に安心ということでもありません。
そこで家族信託に強く、実際に相談をしてみて信頼できると感じた専門家に相談・依頼を行うようにしましょう。
家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。