成年後見制度と家族信託の違い
認知症で判断能力が衰えたときに、保有財産を管理してもらう第三者に必要があります。財産管理の支援者を選任する方法として「成年後見制度」と「家族信託」がありますが、それぞれ特徴が異なります。従って、各制度の内容を把握しておきましょう。この記事では、成年後見制度と家族信託の違いについて分かりやすく解説します。
成年後見制度と家族信託の違い
成年後見制度と家族信託を比較すると、下記の表になります。
家族信託 | 雛形上で該当する条文等 | |
---|---|---|
相続対策 | 不可能 | 可能 |
財産管理の支援者 | 裁判所が決定する | 本人が選出する |
財産管理状況の報告 | 1年に1回 | 不要(委託者の求めや契約に定めがあれば必要) |
メリット | 資産の保全ができる
身上監護を任せられる |
財産の運用・処分を依頼できる
生前整理ができる |
デメリット | 手続きが煩雑になりがち
財産の運用・処分は原則できない |
身上監護は任せられない
トラブルが起きやすい 専門知識が必要になる |
費用 | 財産管理委託料:年間2万~10万円 | 財産管理委託料(※):年0円~10万円
契約書作成の専門家費用:50万円〜(対象財産の価額による) |
(※)家族信託の財産管理委託料の支払いは義務ではありません。受託者の同意が得られれば、支払う必要はありません。
成年後見制度とは
認知症や精神的障害により、判断能力が著しく衰えた人に「後見人」と呼ばれる財産管理の支援者を付ける制度です。2000年4月1日、介護保険制度と同時に成年後見制度がスタートしました。高齢化社会で想定されるトラブルを防止するために施行された制度です。
成年後見制度には、2つの方法があります。病気で判断能力が衰えて財産管理が難しくなった場合に、家庭裁判所で後見人を選任する「法定後見」。判断能力が衰えることを想定して、ご本人が後見人を選任しておく「任意後見」。どちらも、認知症や精神的障害を抱えて判断ができなくなった場合に、制度の効力が発揮されます。なお、任意後見といえども、実際に後見人に選任されるためには家庭裁判所での手続が必要になる点は注意してください。
メリット
成年後見制度のメリットとして、以下のようなことがあげられます。
身上監護をお任せできる
成年後見制度では、身上監護をお任せできます。身上監護とは、生活・治療・療養・看護などに関する手続きのことです。例えば、生活保護の申請や介護認定に関する異議申し立てなどが該当します。
家族信託の委託範囲は、財産管理・運用・処分であり、身上監護は範囲外になります。従って、身上監護をお任せしたい場合には、成年後見制度を活用しましょう。
保有財産の保全ができる
成年後見制度で、後見人に選任された方は、財産の管理状況を1年に1回報告をしなければいけません。家庭裁判所にも報告しなければならず、後見人の職務を遂行しているかが問われます。そのため、後見人の預貯金着服などの不正行為が見つけられやすくなっており、不正行為を防止できます。保有財産の保全ができることも、成年後見制度のメリットです。
デメリット
成年後見制度のデメリットとして、以下のようなことがあげられます。
判断能力が低下したときに効力を発揮する
成年後見制度は、認知症や精神的障害が発症するなどして本人の判断能力が著しく低下しない限りは効力を発揮しません。他方で、家族信託は、健康な場合でも効力を発揮させられるため、遺言書の代わりにできたり相続対策ができたりします。しかし、成年後見制度は、それらができません。
裁判所への手続きが煩雑
成年後見制度を活用する場合は、家庭裁判所に申し立てをしなければいけません、申立書を作成したり、家庭裁判所に出向いたり、手続きが煩雑な部分があります。また、後見人に選任された方は、財産管理や身上監護など職務の状況を家庭裁判所に報告しなければいけません。
家庭裁判所が後見人を決定する
成年後見制度の後見人は、家庭裁判所が決めます。管理する財産の総額が高くなるほど、弁護士や司法書士など、第三者が後見人に選任されるケースが多いです。
任意後見であれば、自ら後見人を選任することができますが、適切な人であるかがチェックされます。最終判断は、家庭裁判所で下されるため、ご自身の希望と異なってしまう恐れもあります。
後見人に報酬を支払う必要がある
後見人には、財産管理や身上監護の職務に当たってくれた分の報酬を支払わなければいけません。報酬金額は2万円からとなっており、財産金額や保有財産の種類などに応じて変動します。後見が続く限り支払う必要があるものですから、後見状態が長年続く場合にはそれだけ負担が大きくなります。
財産の総額 | 報酬目安 |
---|---|
1,000万円以下 | 月2万円 |
1,000万円超え5,000万円以下 | 月3~4万円 |
5,000万円超え | 月5~6万円 |
※遺産分割や不動産の売却、保険の請求などの手続きをする場合は報酬が加算されます。
成年後見制度の手続きの流れ
成年後見制度の手続きの流れは、次の通りです。
- 家庭裁判所に後見開始の審判の申し立てをする
- 申立書を参考にして、後見人等候補者の調査が開始される
- 調査結果から、後見人が決定される
- 審判書を受領する
- 法務局で後見登記がされる
家族信託の特徴
家族信託とは、「家族」を「信用」して財産を「託す」という意味を持つ制度です。生前整理のため、家族信託の手続きをする人が増えています。正確には信託法に基づく信託契約を結ぶのですが、家族間で結ばれる信託契約を一般に「家族信託」と呼びます」。
家族信託は、認知症や精神的障害による判断能力の低下は関係ありません。委託者(保有財産を託す側)と受託者(保有財産を託される側)が、家族信託契約を締結すれば効力が発揮します。従って、将来の病気に対する備えや、相続対策、遺言書代用などに家族信託が利用されます。
メリット
家族信託のメリットとして、以下のようなことがあげられます。
財産の運用・処分が依頼できる
家族信託は財産管理だけではなく、運用や処分を委託できます。例えば、投資物件を保有する委託者が認知症になり、賃貸経営が行えなくなった場合を考えてみましょう。
後見人は、原則として賃貸経営の維持しかできません。その一方で、家族信託で受託者に選任された人は、状況に応じて賃貸経営の方法を変えることができます。受託者が預かる財産に対する権限が幅広いことが、家族信託の最大のメリットです。
また、成年後見制度を利用する場合には、財産の全部を後見人が管理監督する必要がありますが、家族信託の場合は、この口座の預金だけとかこの不動産だけといったように特定の財産のみを対象とすることが可能です。
生前整理ができる
家族信託は、遺言書の代用にもできます。財産に関することであれば、委託者と受託者の同意があれば、自由に取り決められます。相続や贈与の節税対策の効果は少ないですが、生前整理が行えます。
デメリット
家族信託のデメリットとして、以下のようなことがあげられます。
身上監護はお任せできない
受託者に任せることができるのは、財産管理・運用・処分です。成年後見制度のように身上監護はお任せすることができません。生活保護が必要になる恐れがあったり、介護認定の異議申し立てを依頼したりする場合は、成年後見制度を活用しましょう。
家族間トラブルが起きやすい
家族信託契約は、委託者と受託者の同意で締結できますが、契約前には親族で話し合うことをおすすめします。双方の同意だけで話を進めてしまうと「受託者が財産を全て横領しようとしている…」と誤解を与えてしまいかねません。
とくに、家族信託は認知度が低いため、制度を利用したい旨を説明して理解してもらっておきましょう。可能であれば、弁護士等の専門家から説明してもらうのが良いでしょう。
専門知識が必要になる
家族信託には、法律や税金、不動産などさまざまな専門知識が必要になります。認知症で判断能力が低下することを恐れて、家族に財産を託しておく制度で極めて使い勝手の良いものですが、まだあまり認知されていません。
家族信託は、高齢社会が進むにつれて認知が広まりつつある制度です。そのため、まだ家族信託に対応できる専門家も多くはありません。
家族信託の流れ
家族信託の手続きの流れは、次の通りです。
- 家族信託の目的と内容を話し合って決める
- 家族信託契約書を作成する
- 家族信託契約を締結する
- 契約書を公正証書にする
- 信託財産用の銀行口座を開設する
- 信託財産(不動産)の名義変更をする
- 信託による財産管理・運用を開始する
※6や7は、何を信託財産の対象とするかによります。
まとめ
今回は、成年後見制度と家族信託の違いについて解説しました。誰かに財産管理を依頼するという意味では同じです。しかし、財産管理者の権限の範囲や契約の効力の発生時期が異なります。
自分自身が希望する財産管理を望む場合は「家族信託」がおすすめです。家族信託は遺言書の代わりにもなります。そのため、将来を見据えて財産管理を見直したい方は、家族信託の制度を利用してみましょう。
「弁護士法人えそら」でも、家族信託のご相談を受け付けています。ぜひ、家族信託に興味を持った方は、お気軽にご相談ください。
家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。