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家族信託で孫に財産を遺す方法|シチュエーション別に家族信託の設計方法を紹介

家族信託を活用することで祖父母が孫に財産を遺すことは可能です。
何ら対策をしなくても相続により祖父母の財産は親族に承継されるのですが、これでは祖父母本人の意思を反映して特定の孫に財産を受け取ってもらうことは難しくなります。生前贈与や遺言書を使うことで財産を渡すこともできるのですが、孫が幼い場合の財産管理などその他種々の問題が出てきます。
そこで選択肢として検討したいのが家族信託です。財産の流れを細かく設定することができ、上手く活用することで様々な状況に対応することができます。
どのような方法で孫に財産を遺すことができるのか、いくつかのシチュエーションに分けてこの記事で紹介をしていきます。

孫に財産を遺すための家族信託の活用方法

孫に財産を残す方法はいろいろあります。
例えば単に財産を渡すという目的を果たすだけであれば、贈与契約を実行するだけで十分です。
しかし現実には孫が幼くて財産を扱えないというケースもあるでしょうし、自分が亡くなるタイミングで渡したいというケースもあるでしょう。

家族信託であれば契約内容を工夫することで様々なニーズに応えることができるようになります。いくつか例を挙げて活用方法を示していきます。

親に管理をしてもらいながら孫に財産を与えるケース

孫に渡したい財産があるものの、まだ孫に財産管理を任せるのが難しいという場合を想定してみましょう。

このとき、受託者を親(委託者にとっての子)、受益者を孫として設定することで解決できるケースがあります。また委託者にとっての子である受託者が死亡したときにそなえて、後継受託者も信託契約の中で指定しておくとなお安心といえます。
「祖父母がそのまま管理を続ければ良いのではないか」と思うかもしれませんが、この場合、祖父母が予期せず亡くなった場合や認知症を発症して判断能力を失ってしまったときに困ります。事前の対策を取れていないと相続人らの遺産分割協議に頼るしかなく、祖父母の希望通りの結果になるかどうかがわかりません。

この点、家族信託で委託者を祖父母であるご自身、受託者を親、受益者を孫と設定すれば、財産管理に関する問題も解決しつつ孫に経済的利益を与えることが叶います。

また、年齢の問題ではなく、孫が障がいを持っているケースでも同様の手法で問題が解決できます。
孫の判断能力が十分でなく財産管理が難しい場合に、家族信託でその管理の部分を親に任せつつ、財産運用から生じる利益を孫に与えることができます。

委託者が亡くなってから孫に財産を与えるケース

委託者が、「自分が生きている間は自分のための財産を使い、亡くなってから孫に与えたい」という願望を持っている場合でも家族信託で対応可能です。

このケースでは、委託者を第1受益者と兼ねて設定し、親を受託者、第2受益者を孫と設定します。

そうすると、第1受益者である祖父母が生きている間は親に財産管理を任せつつもその恩恵は委託者自身が受けることができます。委託者の認知症対策にも有効です。そして委託者兼第1受益者が亡くなってからは、第2受益者として設定された孫が経済的利益を受ける権利を引き継ぎます。

なお、遺言によって孫に遺贈するという方法も考えられます。遺贈とは遺言によって相続人以外の者に相続をさせることをいいます。被相続人にとっての子(孫にとっての親)がご存命の場合には、被相続人の財産が相続によって孫にいくことはありません。そこで遺言書によって孫に遺贈させるということになります。しかし、この方法を行ったとしても、相続人全員の同意があれば、遺言書の内容とは異なる方法で相続することが可能であるため、かならずしも被相続人の思いが実現されるわけではありません。

親に財産管理を任せられないケース

ここまでは例として受託者を“親”に設定してきましたが、親以外を受託者とすることもできます。そもそも「受託者は、受益者の親であるべき」というルールもありませんし、家族以外に信託することも何ら問題はありません。信頼できる人物であって、相続も意識すると自分より若い人物が候補に挙がってきますので、受益者の親が選ばれやすいというだけに過ぎません。

むしろ、その人物が信頼できないというケースも現実にはあるでしょう。
人として信用していないわけではなく、財産の管理運用を任せるには不安があるというケースもあるかと思われます。

親に浪費癖があるとき、親以外の信頼できる人物を受託者の候補に挙げる必要がありますので、例えばご自身の兄弟姉妹を受託者に選定することも視野に入れてみましょう。その他、孫との接点があり、信頼できる人物がいないか探してみましょう。
その上で、孫を受益者として設定すれば良いのです。

親から孫までの財産の流れを指定したいケース

いきなり孫に財産を渡すのではなく、委託者である祖父母から親へ、その後さらに孫へ、という流れで信託財産による恩恵を与えたいのであれば、第1~第3までの受益者を設定しましょう。

孫の年齢・財産管理能力に問題がないのであれば、当初から孫を受託者として設定し、祖父母を委託者兼第1受益者・親を第2受益者・孫を第3受益者とすれば良いです。

これにより祖父母が生きている間は孫に財産を預けてそこから生活費などを出してもらうことができます。その祖父母が亡くなってからは親が受益者となり、さらに親が亡くなると孫が財産を受け取れるように設定が可能です。

孫が自分の好きなように財産を使えるようになるまでは長い期間を要しますが、最終的には自分のものになると思えば責任を持った運用も期待できますし、こういった複雑な設計も家族信託なら可能になります。

家族信託で孫に財産を渡すメリット

家族信託を活用して孫に財産を渡すよう設定することには次のようなメリットがあります。

  • 財産の引渡し時期が調整できる
  • 無駄遣いが予防できる
  • 2次相続にも対応できる
  • 子を飛ばして孫に財産を渡せる 

各メリットの詳細を説明していきます。

財産の引渡し時期が調整できる

家族信託は、“信託契約”に基づいて実行されます。
信託契約は委託者と受託者との間の契約で、信託財産の内容や管理運用の方法などを詳細に定めておくことができます。

そのため信託契約において、財産の引渡しについて効力発生日を具体的に定めておけば、その時期に引き渡しを実現することができます。
遺言書を使うことでも財産を渡すこと自体は可能ですが、遺言書では死亡時に財産が移転してしまうのに対して、家族信託ではより高い自由度を持たせて引き渡し時期の調整ができるようになります。
例えば、複数回に分け、特定の時期に財産を渡していくといったことも実現可能です。

無駄遣いが予防できる

孫に財産を渡すという意味では生前贈与でも実現は可能です
ただ、いきなり大きな財産を与えることにより、孫が無駄遣いをしてしまうおそれもあります。
これを防ぐため、家族信託における“受託者”が効果を発揮します。

すべての権限は孫に与えず、その親などに特定のルールを課して受託者となってもらうことで、毎月一定額を渡していくといった工夫を施すのです。
突然数百万円、数千万円もの大金を与えることに不安がある場合におすすめです。

2次相続にも対応できる

「自分が亡くなるタイミングで財産をあげたい」という希望を叶えるだけであれば、遺言書を使っても実現できます。

しかし遺言書だと2次相続対策が困難です。
例えば「私が亡くなれば土地は子に与える。その後子が亡くなれば、土地は孫に与える。」とする遺言はそのすべてが有効には機能するわけではありません
遺言書で法的に拘束できるのは、遺言者自身の相続限りです。子の死後は子の相続の問題であり、先の相続における遺言書で拘束することはできないのです
“付言事項”としてその希望を伝えることはできますが、あくまで“お願い”としての効力しか持たず、実現が約束されるわけではありません。

他方、家族信託では財産の所有権が受託者に移転します。そして財産は信託財産となり、相続問題からある程度隔離することができます。
そのため契約で上のような指定をすることで、2次相続対策とすることもできるのです。

親を飛ばして孫に財産を渡せる

一般的な相続では、祖父母から親へ、親から孫へ、といった流れで財産が承継されます。

しかし家族信託を利用すればその流れに沿わない流れで財産の承継を行うことが可能です。
財産をあげたいと考えている孫がいたとしても、その親の金遣いが荒いと、孫の代にまで財産が残っているかはわかりません。相続を待っていては“孫に財産を与える”という目標は達成できないかもしれないのです。

こうした不安があるのなら、家族信託で受益者を孫として設定し、親を信託財産に該当する財産を承継する流れから省けば良いのです。受託者も親以外の人物を指定することで、親からの干渉を受けずに孫に財産を渡せます。

家族信託による孫への財産承継で検討したいポイント

家族信託は、契約当事者となる家族間の信頼が基礎となります。受託者が契約通りに財産を扱ってくれなければ希望通りの結果にはなりません。他の契約と違い、契約の当事者である委託者が契約期間中に亡くなることもありますし、加齢等により判断能力を失ってしまうこともあります。そうした状況になっても安心して任せられる人物を受託者とすること、そして、これに加えて“安心できる仕組み”を利用することが大事です。
その観点からは、「信託監督人の選任」または「受託者代理人の選任」の検討がおすすめされます。

信託監督人の選任

「信託監督人」とは、“受託者が信託契約に沿って信託財産の管理をし、受益者の利益を損ねていないか監視する人物”と説明することができます。

受託者がきちんと契約に従っているかどうかをチェックするのが信託監督人の仕事です。この人物の選任を申し立てることで受託者による不正が予防しやすくなりますし、意図的な不正のほか、間違った財産管理をしているときには指摘をしてもらうこともできます。

受託者の行為につき評価ができる人物でなければ意味がありませんし、通常は弁護士などの専門知識を有している人物であって、契約内容に利害関係を持たない第三者であることが望ましいです。

受益者代理人の選任

信託監督人と似た人物に「受益者代理人」がいます。
信託監督人が信託契約全体の健全を保とうとするのに対し、受益者代理人は特定の受益者の利益のために機能します。

信託監督人と受益者代理人は原則として信託契約の中で指定されます、信託監督人は指定がない場合や、信託行為で指定された人が就任を拒否した際などに利害関係人の申し立てにより裁判所が選任することが可能です。他方、受益者代理人は特定の受益者について代理権を有し、受益者本人の権限行使の制限をする者なので、家庭裁判所による選任は認められていません。したがって受益者代理人を選任する際には信託契約において選任をすることを忘れないようにしましょう。

上記のように受益者代理人は、受益者の代理権を有しており、受益者代理人の行為は受益者本人に直接効果が帰属します。もともと受益者は、受託者の行為に不安がある場合などに信託行為に一定の関与をする権限を持っているのですが、受益者が幼かったり障がいなどにより十分な判断能力を有していなかったりする場合、その権限を行使することが困難です。
こうした場合に備えて受益者代理人を選任するのです。

受託者として選任する人物、受益者の判断能力、家族関係など、様々な事情を総合的に考慮して選任を検討すると良いでしょう。

家族信託に強い弁護士への相談

信託監督人や受益者代理人のこと、その他信託契約のことなど、家族信託に関する様々な問題を解決するために弁護士への相談が欠かせません。
家族信託は複雑な契約類型ですんで、高度な専門知識を持った人物にアドバイスをもらっておくべきです。どのように設計するのが安全か、どうすれば孫に財産を上手く遺すことができるのか、家族信託の検討を始める段階から相談を持ち掛けるようにしましょう。
また、弁護士も専門領域がそれぞれに異なりますので、“家族信託に強い弁護士”を探すことが大事です。Webサイトや訪問を通じて信頼できる弁護士を探してみましょう。

家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。