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家族信託における「帰属権利者」とは? 信託終了後の信託財産の行方について

家族信託を始めると委託者の所有に属していた財産は受託者へと移り、それ以降は受託者がその信託財産を管理運用していくことになります。しかし家族信託も永遠に続くわけではなく、いつかは終わるときがきます。このとき信託財産は「帰属権利者」と呼ばれる者に移るケースがあるのですが、この帰属権利者とは何者なのでしょうか。ここで解説をしていきます。

家族信託終了後の信託財産の行方

家族信託は、委託者・受託者間で結ぶ信託契約に基づいて開始されるものです。
信託された財産は「信託財産」と呼ばれ、契約終了後には弁済や清算を行い、その後残った財産は「残余財産」と呼ばれるようになります。

そして“残余財産がどうなるのか”という点については信託法にて以下のように規定されています。

 

第百八十二条 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者となるべき者として指定された者
二 信託行為において残余財産の帰属すべき者となるべき者として指定された者
2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
3 前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。

引用:e-Gov法令検索 信託法第182

 

同条第1項では、「残余財産受益者」(第1号)、「帰属権利者」(第2号)に残余財産が帰属する旨規定されています。
続く第2項では、残余財産受益者や帰属権利者の指定がされていないまたは受け取りを拒否されたときには、委託者や相続人などの一般承継人が帰属権利者に指定されたことになるとの規定が定められています。
最後に第3項では、以上のルールを適用しても帰属先が定まらないのであれば清算受託者が取得する旨定められています。

以上をまとめると、信託財産は家族信託の終了後、以下の順位に従い帰属先が決まるということが言えます。

  1. 指定を受けた残余財産受益者
  2. 委託者、相続人、その他の一般承継人
  3. 清算受託者 


家族信託終了後、財産がどこにも渡らないといった事態にはならないのですが、意図しない人物に渡る可能性はあります。そこで家族信託の設計を行う際には、残余財産の取扱いについても留意し、帰属先の指定も行うべきです。

帰属権利者とは

「帰属権利者」とは、上の説明からも分かる通り、信託の終了後、当該財産の所有者となる受取人を指します。

残余財産受益者との違い

残余財産の帰属先として、帰属権利者に並んで第1順位に位置するのが「残余財産受益者」です。こちらも受取人となり得る人物を指すため、両者にはどのような違いがあるのか疑問に思うかもしれません。

残余財産を得ることができるという意味では大きな違いがないとも言えますが、厳密には区別する必要があります。
というのも、帰属権利者は信託清算中のみ受益者とみなされる者であり、清算手続に入る前の、信託が継続している期間には何の権限も有しません。
他方で残余財産受益者は、残余財産を受け取る受益者のことで、信託行為において受益者の有する受益債権の中に「残余財産の給付ができる」と定めておくことで、信託が始まった時点から受益者でもあり、かつ残余財産受益者にもなります。

それでは残余財産を取得する人物としてどちらを指定すべきなのでしょうか。
着目すべきポイントはやはり「信託終了前から一定の権限を持たせるべきかどうか」という点です。
残余財産受益者を採用すると信託の終了前から受益者としての権利行使が可能となり、契約の変更、終了などに対して一定の関与ができるようになります。
帰属権利者は契約期間中関与をすることができません。

そこで、第三者が財産を受ける場合には家族信託に介入させないように帰属権利者として指定し、関与させても問題のない身内などが財産を受ける場合には残余財産受益者として指定する、といった使い分けをすると良いでしょう。

帰属権利者の定め方

帰属権利者はどのように定めるのか、その手法を説明していきます。

信託契約であらかじめ定める

1つは、「信託契約で事前に指定しておく」という方法です。

信託契約で帰属権利者に関する条項を設け、具体的な人物を明示します。
ただし、信託が終了する前に帰属権利者として指定された者が亡くなっていることもあり得ます。こうした事態に備え、予備的に別の人物も指定しておくのが望ましいでしょう。
なお、として特定の具体的な人物を指定せずとも「残余財産の帰属権利者は、受益者の法定相続人とし、具体的な帰属先や割合については、相続人の協議に委ねる」などとすることも可能です。

協議で事後的に定める

必ずしも、事前に契約で帰属権利者を定める必要はありません。信託終了後に相続人らの協議により定めることもできます。
契約時点で財産の承継先が決まっておらず、取り急ぎ財産の管理を受託者に任せたいという場合などにはこうした対応を取っても良いでしょう。

ただし相続人同士の関係性が良好でなければ協議がなかなかまとまらず、財産の帰属先が定まらない、場合によっては財産が凍結してしまうおそれもあります。できる限り、事前に決めておくことが望ましいといえます。

複数人の帰属権利者を定めるときの注意点

帰属権利者は複数人を指定することも可能です。

しかしながら、財産の運用方法次第では帰属権利者間で不平等が生じるおそれもありますので要注意です。
例えば信託財産を甲不動産(2,000万円)、乙不動産(2,000万円)、現金1,000万円とし、信託終了時の残余財産の帰属先を長男と次男に指定したとしましょう。長男には甲不動産と現金の50%、次男には乙不動産と現金の50%を帰属させると定めれば平等に財産が帰属させられるように見えます。しかし、資産運用にあたり甲不動産を売却してしまった場合信託終了時の残余財産として長男は現金50%、次男は乙不動産と現金50%という結果になり、長男と次男の帰属割合が不公平になってしまいました

こうした問題が生じないよう1つの信託契約でを複数人指定する際には、資産の処分等を行わないケースにする必要があります。

帰属権利者の権限

帰属権利者はどのような権限を持つのか、清算が開始された後で帰属権利者ができることについて解説していきます。

残余財産の給付に関する債権を持つ

信託法には、帰属権利者に関するルールの1つとして以下のような規定が置かれています。

 

信託行為の定めにより帰属権利者となるべき者として指定された者は、当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

引用:e-Gov法令検索 信託法第183条第1

 

残余財産の給付に係る債権を得ることになり、これを管理する人物に対して請求ができることとされています。

しかしながら、一切の制限なく即座に財産が取得できるわけではなく、次のような制限があります

受託者が信託事務を行うに際して、必要な費用は原則、信託財産の中から支払うことになります。しかしながら、信託財産に現金がない場合には、受託者が個人のお金で立て替えて支払っていかなければなりません。このような場合には、受託者は信託契約中に受益者から償還を受けるか、あるいは、費用の償還を行います。

そして受託者が「費用の償還」に関する権利を有しているときには、その限度で信託財産中の金銭を受託者固有の財産にできると認められています。信託事務を処理する上で必要な費用についてまで受託者自身の財産で負担することは正当とは言えないからです。
そしてその権利を受託者が有している限りは、帰属権利者に対する債務の履行も拒むことが法律上許されています。

権利の放棄ができる

帰属権利者として指定されても、財産の受け取りが強制されるわけではありません。受領を拒むことも可能です。

 

信託行為の定めにより帰属権利者となった者は、受託者に対し、その権利を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、信託行為の定めにより帰属権利者となった者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索 信託法第183条第3

 

なお、信託の終了後は原則として受託者が「清算受託者」として業務を遂行することになるのですが、帰属権利者が受領を拒んだとき(または受領ができないとき)には、相当の期間を設定した上で受領の催告をしておけば、当該財産を競売に出すことができるとされています。
また、財産の状態を鑑みて、損傷やその他の事由によって価格が暴落するなどのおそれがあるなら上の催告を行うことなく競売に出すこともできるとされています。

信託財産が帰属権利者に移転したときの手続

家族信託終了後、財産を移転するために手続を要することがあります。
この手続に関しては帰属権利者だからといって特段変わったことは基本的にありませんが、不動産の移転がある場合には登記手続が必要となりますので留意しましょう。

必要になるのは、①所有権移転登記、②信託抹消登記の2つです。
これらを経て名義変更が完了します。

①に関しては、帰属権利者が登記権利者として、受託者が登記義務者として共同申請を行わなければなりません。
②に関しては、受託者が単独で申請することが可能です。

家族信託が終わるケース

最後に、信託がどのような場合に終わるのか、いくつかパターンを紹介していきます。

法定の事由が生じたとき

信託法第163条には信託が終了する事由が列挙されています。

例えば「信託の目的を達したとき」や「信託の目的を達することができなくなったとき」があります。これらの事由が生じたときにはそれ以上信託を続ける必要がないことから、信託が終了するとされています。

他にも、「受託者がいなくなり、新たに就任されることもなく1年が経過したとき」「費用の償還等に対し信託財産が足りていないことを理由に、受託者が信託を終了させたとき」「信託を終了させることが受益者の利益のため、あるいは公益の確保のために、裁判所が信託の終了を命じたとき」「信託財産に関しての破産手続開始決定があったとき」、そして「信託契約で当事者が特に終了事由として定めた事由が生じたとき」などが挙げられています。

受益者と委託者が合意をしたとき

信託法で規定されている上記の事由が生じていなくても、委託者と受益者が合意をすれば信託を終了させることは可能です。家族信託の場合には委託者と受益者が同一人物になるケースも多いため、このときには委託者兼受益者が独断で終了させることができます。

受託者は合意に基づく終了に関与しませんが、法律上、受託者の不利な時期に終了をする場合には、委託者および受益者はやむを得ない事由がある場合を除いて、受託者に損害賠償を要する旨規定されています。

家族信託は、信託の目的や信託行為だけでなく、終了時の帰属権利者の指定や終了事由の定めなどにも気をはらう必要があります。家族の中でのトラブルの発端にならないように家族信託の設計については弁護士に相談して進めていくことをおすすめします。

家族信託のご相談は電話やメールのほか、リモートも可能です。お気軽にご相談ください。