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株式や投資信託を家族信託する場合の注意点! 信託契約前に知っておきたい基礎知識

株式や投資信託についても家族信託により信託財産とすることができます。しかしこれらの財産は現金などとは別の性質を有していることから特別の注意を向ける必要があります。
株式や投資信託を家族信託するとき、どのような点に注意すべきなのか、ここで解説をしていきます。

株式・投資信託を家族信託することの意義

精神障害、認知症などにより判断能力を失ってしまうと、本人が有価証券等の売却や管理をすることは難しくなってしまいます。

このとき、本人が何ら対策もとっていない場合には成年後見制度により専門家等の第三者が後見人としてつくことが考えられます。しかし上場株式や投資信託といった金融資産の運用に後見制度は向いていません。というのも、単純に利殖を目的としている株取引は、本人の利益になる保証がなく、むしろ財産を減少させてしまうおそれがあるので、後見人が行うこと難しいためです
後見人は本人の日常生活を支えるために必要な法律行為等を行うのが主な仕事であり、金融資産を取り扱うには別途家庭裁判所からの指示等を求めることになります。

そこで後見制度以外の対策も検討する必要があります。
ここで有力な候補として上がってくるのが「家族信託」です。家族信託では後見制度よりも、受託者が比較的自由にアクションを起こすことができ、金融資産に関しても管理運用しやすくなります。もちろん、自由度の高い家族信託といっても信託開始の前には当事者間での契約を交わさなければならず、受託者による信託行為は当該契約で定めた範囲内での行動に限られます。
しかしながら、あらかじめ家族信託の準備を進めておけば上場株式や投資信託の取扱いで困るという事態は防ぎやすくなるのです。

具体的には、将来の判断能力に不安を感じている本人(委託者)名義の口座から子などの家族(受託者)名義の信託口口座に株式などを移し、その家族が信託契約で定めた目的に従い管理や取引を行うという流れになります。
こうして信託契約を締結しておけば、仮に本人が認知症になってしまっても信託口口座において、受託者が引き続き取引を行うことができ、委託者兼受益者と設定しておけば本人も当該取引による恩恵を受け続けることが可能となります。さらに、本人が亡くなった後の後継についても定めておくことができますので、スムーズな財産の移行が実現できます。

株式・投資信託を家族信託するときの注意点

以上のように、株式や投資信託を有している場合でも家族信託を利用すれば種々の問題を解決することが可能です。
ただ、家族信託を利用するだけであらゆる問題が解決されるわけではありませんし、家族信託ならではの注意点もあります。

そこで本人が株式や投資信託を有している場合における家族信託の注意点を以下で紹介していきます。

指図権者の選定

単なる投資目的ではなく、経営権を行使する目的で株式を有している場合があります。
このときに、家族信託でその株式を信託財産として受託者に託してしまうと、受託者がその株式に係る議決権を行使することになります。
しかし、信託行為において指図権者を委託者として指定しておけば、受託者は委託者の指図にしたがって議決権を行使することになります
これによって、家族信託開始後も委託者が経営権を保持しつつ、判断能力を欠いたときに後継者に権限を譲ることが可能になり、会社の運営に空白期間を生じさせることもありません。

そこで株式会社の経営をしている場合、今すぐ後継者に会社を譲ることに不安があるのであれば、指図権者の選定を行うと良いでしょう。

株式の保有期間はリセットされる

投資の目的で上場株式等を保有している場合、株主優待等の恩恵も期待できます。
しかし家族信託で受託者に株式の所有が移ると、株主名簿上も受託者名義で登録されることとなり、保有期間はリセットされてしまいます。保有期間に応じた恩恵が受けられる場合にはこの点注意が必要です。

信託口口座の開設が必要

株式や投資信託を信託財産とする場合、証券会社で信託口口座を開設することになります。
しかし、どの証券会社でも簡単に口座が作れるわけではありません。

信託口口座の開設に対応している証券会社は限られていますし、始めようとしている家族信託の内容に適応しているかどうか、要件なども確認しなければなりません。
開設ができない、手続に手間がかかる、商品を移すことができないといった問題が起こり得ますのであらかじめ証券会社に確認をしておくことが必要です

受託者に対する報酬の定め

受託者は信託財産を所有することができますが、その恩恵を受けるわけではありません。受託者の働きによる恩恵を受けるのは受益者です。

その一方で、受託者には様々な負担がかかります。
そこで専門家等の第三者を受託者として定める信託契約の場合には通常報酬を支払うことになるのですが、家族を受託者とする場合には無報酬としているケースも見られます。

ただ、家族だからといって無報酬にすることが好ましいわけではありません。信託財産の管理や運用という大変な仕事をこなさなければなりませんし、毎年税務手続上の負担もかかります。
そこで長期に渡り適切な信託財産の管理等を望むのであれば、家族を受託者とする場合でも報酬の定めについて吟味する必要があります。当事者全員が納得できるよう、報酬について話し合っておきましょう。

財産の管理運用能力を持つ受託者の選定

信頼できる身近な家族を受託者とすることで安心が得られます。
また信託契約によって財産の所有権が移ると言っても身内で移るだけですので心理的なハードルもそれほど高くありません。

ただ、受託者の選び方には要注意です。
人柄が良く、信頼に足る人物であったとしても、資産運用能力や金融リテラシーを有していなければ適切な管理運用が実行できません。特に金融資産については取引に際してリスクも伴います。
そのため信用できる人物でも、これまでの運用実績がまったくない、あるいは知識が乏しいのであれば適任とは言えません。
さらに証券会社との取引では、日本国内に住んでいる個人であること、委託者の配偶者や子供などの一定範囲内の親族であることなどの要件が求められることもありますので、この点はあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

遺留分侵害額請求への対策

株式等を家族信託することにより、一定の相続人の遺留分を侵害してしまうことがあります。遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に民法で認められた最低限の相続財産を取得できる権利のことを指し、被相続人の配偶者や子など一定の相続人の生活を保障するための制度です。
信託による相続を行った結果、特定の相続人の遺留分を侵害してしまう状態になった際には、その相続人からこの遺留分の回復を求めて遺留分侵害額請求権を行使される可能性があります。
ただ、遺留分侵害額請求の対象となるのは「信託譲渡(委託者から受託者に信託財産が移ること)」自体ではなく、「信託受益権(受益者が家族信託により利益を受けることのできる権利)」です。
通常の相続では、財産の所有権が移ることにより遺留分が侵害されたとして遺留分侵害額請求をして金銭の支払いを求めることになります。しかし家族信託においては、受託者は財産の所有権は持つもののそこから利益を受けているわけではありません。利益を受けているのは受益者です。
そこで受益者の持つ信託受益権という債権を対象に遺留分侵害額請求が行われることになるのです。

株式等に限った問題ではありませんが、保有資産のうち大きな割合を信託財産が占めるときにはこうした遺留分にも配慮する必要があるでしょう。

別の制度の利用も検討すること

家族信託を利用することで資産運用を家族に任せられるようになりますが、株式の保有や投資信託をしている状況において常に家族信託が適しているわけではありません。

例えば株式の保有のみを任せたいという場合にはあえて家族信託という形を採用する必要はありません。証券会社に代理人届をすることで、指定した代理人に株式等の管理を任せることは可能です。このときには信託口口座の開設は不要ですし、株主優待による恩恵もそのまま受け続けることができます。
ただし代理人に任せる場合には後継者問題などが出てきますし、将来起こり得る問題を想定して、状況に適した制度の利用の検討を進めていくことが大切です。

信託口口座の開設に関する注意点

株式等を信託財産として家族信託を開始するには、信託口口座を開設しなければなりません。そしてこの口座開設にあたっても多くの注意点がありますので、以下の内容を押さえておくようにしましょう。

証券会社での取扱商品の確認

信託契約内容を定めるにあたり証券会社に相談をしておく、あるいは契約したい内容に対応している証券会社を探すことが必要です

投資信託や株式など、商品によっては信託口口座の取扱いがない可能性もあります。
国内の上場株式だとどの証券会社であっても取り扱っていると考えられますが、米国株や投資信託などの金融商品だと証券会社によって取り扱いには差があります。
信託口口座を開設する予定がある場合には、事前に証券会社に相談をしておくとよいでしょう。

また、証券会社を利用して株式の取引等を行うときには手数料が発生しますので、手数料の内容にも着目することが大切です。

信託口口座の開設要件の確認

口座を開設するために満たさなければならない要件も確認しましょう。要件の内容しだいで契約内容も調整することになります。

例えば「委託者と受益者が一致していること」「当事者が個人であること」「当事者が日本国内に居住していること」「受託者が委託者の配偶者または近親者であること」といった要件を提示しているケースがあります。

法的には委託者と受益者の一致や受託者が個人であることなどは求められていません。
しかし証券会社のサービスを利用する上では各社が独自に定めたルールに従わなければなりません。
受益者となる者や受託者となる者などに制限がかかっていることが多いため、信託契約を締結する前に必ず証券会社に確認を取るようにしましょう。

また、場合によっては「受益者の死亡により信託が終了する旨を契約に定めていること」が要件とされています。
この場合一代限りで信託契約が終了してしまいます。
受益者を親から子へ、そして子から孫へと継続する連続型の信託はできないことになってしまいます。
こういった点についてもあらかじめ確認が必要です。

信託契約書の作成の依頼

信託契約書は当事者間のみで作成を進めて、私文書として作成しても契約の効力は生じます。
しかしながら2点の理由から、公正証書で作成すべきと言えます。

1つは、「信託口口座の開設にあたっての要件とされている」ことに由来します。
多くの証券会社では公正証書として信託契約書が作成されていることを口座開設の要件としています。
さらに、信託契約書の作成にあたり弁護士等の専門家が関与していることを要件にしていることもあります。

もう1つの理由は、「信託契約が法的に有効であることを担保できる」ということです。
法律のプロではない個人間で作成した契約書には不備が含まれている可能性も高いです。しかし公正証書は公証役場で作成するため、公証人が関与しており形式的な不備の発生は防ぐことができます。
さらに作成後の契約書については改ざんや紛失のおそれがなくなることから、安心して契約の履行ができるようになるでしょう。

そのため証券会社が公正証書を求めていない場合でも、安全のため、信託契約書は公正証書にしておくことが望ましいです。

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