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家族信託における受託者になれるのはどんな人?条件や適性、業務範囲についても解説

家族信託の登場人物には、財産管理等を信託する「委託者」と、財産管理等を信託された「受託者」、そして当該信託の恩恵を受ける「受益者」がいます。委託者は自ら財産の運用を行うことに不安があるため受託者に事務を任せるのであり、受託者は信託契約の目的基づいて財産の管理処分を行わなければならず責任は重大です。受益者も受託者の適切な働きがなければその恩恵は得られません。
つまり家族信託においては受託者が非常に大きな役割を担う存在であると言えます。そんな受託者につき、この記事では「どんな人がなれるのか」「どんな人に向いているのか」「どんなことをするのか」といったことを解説していきます。

受託者になれる人の条件

受託者の条件としてまず知っておかなければならないのが信託法第7条です。

 

第七条 信託は、未成年者を受託者としてすることができない。

引用:信託法 第7

 

法律上明記されているのは「未成年はだめ」ということです。家族信託は委託者と受託者との間で信託契約を締結する制度ですが、未成年者は、原則として法定代理人の同意を得ないと有効に契約締結などの法律行為ができないと民法で定められています。そのため、未成年者を受託者にすることができないのですしたがって、信頼できる子を受託者として家族信託をしたいと思っても、その子が未成年であれば法律上選任することが認められませんので注意が必要です。

また、「成年被後見人」や「被保佐人」についても受託者になることはできません。
成年被後見人とは「精神上の障害による事理を弁識する能力を欠く常況にある者として、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人のことをいい、被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者のことをいいます。両者は事理弁識能力が欠けているまたは著しく不十分な状態であるため、信託財産の管理処分行為を行うことが困難であるからです。

受託者に適している人

家族信託を利用する上では、「法律上の要件を満たしているか」という点のみならず、「受託者としての適正があるか」という点に着目することが大切です。
どのような人なら受託者としての適正を持つのでしょうか。

信頼できる・信頼関係にある人

第一に、「信頼できる人」でなくてはなりません。
いくら財産の運用に関しての経験や知識を持っていたとしても、信用できない人に財産を預けることはできません。委託者の思いを受け止めて行動してくれる人を選びましょう
また、信託契約を締結すると信託財産の所有権は委託者から受託者へ移行しますし、財産の管理処分権限も受託者が有することになります。そのため、きちんと約束通りの管理運用をしてくれたとしても、家族などの身近な人からの不満や不安の声が出てくることも予想されます。
そこでこれまでの関係性なども考慮し、約束通りの事務を遂行してくれる人であって配偶者や子などから見ても安心できる人に任せるべきです。

長期的に財産管理ができる人

信託契約の内容にもよりますが、受託者には、長期的に財産管理ができる継続力が求められることが多いです

信託契約は受託者死亡によってその任務が終了すると法定されていますので、その観点からは、高齢すぎず健康な人であるほうが継続力が見込まれる可能性は高いです。後見開始または保佐開始の審判も終了事由ですので、近い将来こうした事由が起こりそうと思われる方に任せるのは避けるべきでしょう。

その他信託契約に抵触する行為をしたときなども終了することがありますので、ルールを徹底して遵守してくれる人、コンプライアンスの意識が高い人のほうが長期的に家族信託の運用ができ、受託者として適していると言えます。

専門知識を持つ人

未成年でなければ基本的に受託者になれます。しかし受託者は財産の管理や書類の作成等も行わなければならないため、一定程度の知識や経験を持っている人の方が望ましいといえます。
そこで信頼関係にある身内から受託者を選ぶという方法だけではなく、信託財産に関する特別の知識等を持っている専門家に任せるという選択肢も持っておくとよいでしょう

なお弁護士や司法書士は受託者になることができない、という点は注意が必要です。
信託行法には、受託者に関する規定として、「信託業は内閣総理大臣の免許を受けたものでなければ、営むことはできない」(信託行法3条)と明記されています。
つまり業務として受託者になるためには、内閣総理大臣の免許が必要ということです。
そうはいっても弁護士や司法書士には関与して欲しい、という場合には、受託者でなく、後述するような信託監督人に就任してもらうのが良いでしょう。

受託者を選任する方法

家族信託を開始するためには信託契約を締結する必要があります。そしてほとんどの契約に言えることですが、口約束であっても有効に成立させることは可能です。
しかし口約束の場合、「こんな約束はしていない」などと後からトラブルに発展したときのリスクが大きいです。そこで契約書を作成し、「確かにこの書面に記載通りの約束をしました」と証明できるものを作っておくべきなのです。

このことは家族信託においても例外ではありませんし、むしろ大きな財産を取り扱う契約であるため書面化しておく必要性はかなり高い部類にあると言えるでしょう。

そこで家族信託における受託者選任は以下の手順に沿います。

  1. 受託者に適している人物を探す
  2. 当該人物に受託者になってくれないかと相談する
  3. 具体的な仕事内容等を取りまとめた信託契約書案を考える
  4. 公証役場にて信託契約書を公正証書として作成する

 
信託契約にあたっては専用の口座開設も必要になるところ、公正証書化されていない契約書だと金融機関が受け付けてくれないケースが多いです。また、契約書の紛失や改ざんなどのリスクも排斥できますので公正証書化は必須の過程と捉えておいた方が良いでしょう。

信託監督人の選任も検討すると良い

「受託者だけに任せるのは不安」といった場合には信託監督人の選任も検討すると良いでしょう。

信託監督人とは

信託監督人とは、契約通りの信託が実施されているかどうかを監督する人のことです。要は受託者の見張り役です。
「基本的には家族である個人の受託者に管理は任せるが、一応専門家に監督して欲しい」という場面で弁護士などの専門家を信託監督人としてつけるケースがあります。

信託監督人を選任する方法

信託監督人を選任する方法は2つあります。

1つは「信託契約の中で指定する」という方法です。受託者を選任するのと同じように信託監督人の指定を行うのです。ただし、信託監督人は信託契約の当事者ではありません。信託契約は委託者と受託者の間で締結されるものだからです。したがって、たとえ信託契約の中で信託監督人を指定していたとしても、本人から就任を拒否される可能性があります。信託契約の中で指定する際には、あらかじめ本人に合意をもらっておくのがよいでしょう。
もう1つは「家庭裁判所に選任してもらう」という方法です。信託契約の利害関係人は、家庭裁判所に対し、信託監督人の選任を申し立てることができるのです。信託契約の中で信託監督人が指定されている場合であっても、その指定された人が就任を承諾しない場合には、家庭裁判所への信託監督人の選任申し立てが可能です。

受託者の業務範囲

受託者の具体的な業務内容は契約内容によります。
抽象的な表現をすると、「信託の目的を達成するために必要な行為」が業務範囲とされます。実際その言葉通り、受託者には目的を果たすために必要とされる行為なら広く遂行する必要があり、その権限も有していると考えられています。
もちろん信託契約の中で、受託者の権限を制限することは可能です。たとえば「自宅の売却は禁止する」と規定しても、その規定は有効です。

受託者に課せられる法定の義務

結局のところどのような信託契約を締結するのかによって受託者がすべきことは変わってきます。しかしながら以下の義務が課せられる点は同じです。課せられた義務に従う、抵触しない業務遂行という意味では共通することも多いでしょう。

 

受託者の義務

善管注意義務

善良なる管理者の注意を持って信託業務を行う必要があります。これは、取引上一般的に要求される程度の注意義務で、「自己の財産に対するのと同一の注意義務」よりは重いものなので、受託者は自分の財産よりも注意深く信託財産を取り扱わなければなりません。

忠実義務

受益者のために、忠実に事務処理等を行わなければならず、利益相反行為や競合行為も規制されています。例えば、信託財産を受託者個人が購入する等は利益相反行為になるため原則できません。

公平義務

複数の受益者がいる場合、すべての受益者に対し公平に職務を行わなければならなりません。

分別管理義務

信託財産は受託者名義になりますが、あくまでも自身の財産と信託財産が混ざらないよう、分けて管理する義務を負っています。

この義務に伴い信託の登記・登録の義務も負うことになります。

帳簿等の作成・保存の義務

信託財産の収支・概況についての資料、信託帳簿、信託事務の処理に関する書類の作成義務があります。また信託財産の収支・概況についての資料は、信託が終了して清算が完了するまで信託帳簿は10年間、信託事務の処理に関する書類は書類取得から10年間、それぞれ保管義務があります。

帳簿等の閲覧請求に応じる義務

受益者には、信託帳簿等の閲覧・謄写をする権利があるため、受託者は一定の拒否事由に該当しない限り請求を受けての履行を拒否することはできません。

損失補填責任

受託者が任務を怠ったことによって信託財産に損失が生じた場合には、受益者からその損失の補填を請求され、受託者にはこれを補う責任があります。同様に任務の懈怠によって信託財産に変更が生じた場合には、それを現状回復する責任も負っています。

 

信託監督人の業務

信託監督人の業務内容についても簡単に触れておきましょう。

信託監督人は、受益者を保護するため、以下の行為などをすることが認められています。なお、信託監督人がいる場合であっても受益者自身もこの行為を行うことはできます。

  • 受託者が違反行為をしたときの取消
  • 受託者が利益相反行為をしたときの取消
  • 信託の処理状況に関する報告請求
  • 帳簿等の閲覧請求
  • 受託者の法令違反に対する差止請求

家族信託のことは専門家に相談を

家族信託制度の利用に関して不安があるという方には、家族信託に強い専門家に相談することをおすすめします。とても複雑な仕組みとなっていますし、なかなか法律に精通している方でなければ適切な契約内容にすることが難しい契約類型です。
信託開始後、定めた規定が無効になってしまったり、期待していた結果が得られなかったりといった事態が起こりかねません。

弁護士など高い専門性を持つ人に相談しておけばこうした問題が起こる可能性を下げることができますし、目的を達成するための具体的手法についてのアドバイスもしてもらえます。特に大きな財産を取り扱う場合には弁護士を信託監督人として選任し、安全性を担保することも視野に入れましょう。信託監督人がいることで、強い権限を持つ受託者に対しても一定の抑制効果がはたらきます。

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