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家族信託を活用した不動産相続の方法・メリット・注意点について

家族信託は相続対策にも有効な手段です。不動産を信託財産として子や孫などに引き継いでもらうことも可能ですが、相続とは異なり事前に契約を交わさなければなりません。専門家を交えて契約内容を検討し、特に不動産の場合には登記手続も行うことになります。
これら手続の全体像をここで示し、家族信託を活用することのメリット、そして事前に知っておきたい注意点についても解説をしていきます。

家族信託の概要と不動産の信託について

そもそも信託とは、自らの財産を他人に預け、その管理や処分などを任せることをいいます。財産を預ける人を「委託者」、管理や処分を行う人を「受託者」、受託者の行為によって恩恵を受ける人を「受益者」と呼びます。
その約束やルールを設定する行為が信託契約です。

特に家族や親族を受託者と設定する場合を「家族信託」と呼びます。自分以外に財産を預けるといっても家族内での移転ですので安心感がありますし、いずれ起こる相続への対策とすることも可能です。

また、受託者に預ける財産は「信託財産」と呼ばれます。
現金や預貯金など、家族信託では様々な財産を信託財産として設定することができます。不動産についても例外ではありません。

そこで不動産相続の目的で家族信託を利用する場合、委託者が誰を受託者としたいのかを検討し、その人物と話し合いを行います。信託契約は委託者と受託者の2者で交わす契約なので、受託者の候補者が家族信託を始めることにつき同意をすれば、信託契約を締結することができます。
信託が開始されるとその信託財産の所有権が委託者から受託者へ移転しますので、信託財産に組み入れた不動産について名義変更を行います。つまり、所有者が委託者名義となっているのを、受託者名義に変更するという所有権移転登記信託財産であることを明示するための「信託登記」を行うことになります

信託契約では、委託者が死亡した後の不動産の取扱いなどがある程度自由に設計できます。そのため信託そのものは相続を前提とする仕組みではないのですが、工夫次第で相続対策にもなるといえます

任意後見制度を使った不動産管理との違い

任意後見制度とは、本人が十分な判断能力を有している状態で、あらかじめ任意後見人となる人やその人に頼みたい内容を公正証書による契約で定めておいて、本人の判断能力が不十分になったのちに、その任意後見人が頼まれた内容を本人に代わって行う制度のことをいいます。
この任意後見制度を活用して、不動産の管理を任せることもできるのですが、同じ不動産の管理を任せるといっても、家族信託とは大きな違いがあります。

それは「財産の積極的な運用ができない」ということです。任意後見制度はそもそも判断能力が低下した本人を保護するための制度であり、財産や生活を守ることに重きが置かれています。そのため財産を増やす行為、処分する行為に対しては規制がかけられています。

本人の生活のサポート、介護等に関わる法律行為、といった身上監護ができるのは任意後見制度の利点です。しかし不動産相続が行われるまでの間、本人に代わって複雑な資産運用を行ったり、そこから得られる収益等を他人に分け与えたり、資産運用としての売買を行ったりといった取り扱いをすることはできません。
任意後見制度で期待できるのは、相続開始まで不動産をそのまま保持し続けるということにとどまります。

不動産を家族信託により相続する流れ

それでは、家族信託の仕組みを使って不動産を相続する流れを説明していきます。 

信託契約で不動産相続を設計する

家族信託は信託契約によってその内容を決定するものですが、信託契約は、委託者・受託者の2者で交わされ、契約手続に受益者は登場しません
よくある家族信託の例としては、委託者が自らの判断能力の低下などを危惧して、財産運用を受託者に任せたいという事例です。受益者としての立場を委託者が兼ねることで、管理運用のみを受託者に託し、そこから得られる恩恵は委託者受益者である自分自身に返ってくるように設定します

このような家族信託を不動産相続として使用する場面とは、「委託者等が死亡することを前提に、その後の財産の取扱いについて契約で定める」という場面です

例えば「委託者が生きている間は、委託者兼受益者とする」とした上で、「委託者の死亡後は、委託者の配偶者Aを受益者とする」といった対応を信託契約の内容として取り決めます
また、受託者が亡くなってしまうと契約通りに財産移転が進まなくなりますので、「受託者である長男Bが亡くなったときに備え、次男Cを第2受託者とする」といった契約内容にしておけば、受託者の死亡という事態にも対応ができます。

その他にも、家族信託であれば様々なシチュエーションにも臨機応変に対応ができます。
「委託者が死亡した後は受託者に相続させたい」「不動産を相続させたい子どもがいるが、その子どもが適切な管理をすることが期待できないため、受託者に管理を任せて相続させたい」といったニーズを満たすこともできるでしょう。

信託契約書を作成する

信託契約の内容が定まれば、その内容を書面に取りまとめます。
この書面は一般に「信託契約書」「家族信託契約書」などと呼ばれます。

当事者間で作成する私文書としての形でも、問題なく家族信託は始めることができます。しかし不動産を信託財産とする場合のように、大きな財産を取り扱うときにはより慎重に取り組む方が安心でしょう。
そこで公証役場にアポを取り、公正証書として契約書を作成することが推奨されます。この場合、公証人が直接の作成作業を行うことから、当該契約書は公文書として作成されます。原本が公証役場に保管されるため紛失や改ざんを心配する必要はありません、公証人というプロが作成に携わるため、形式的な不備が発生するリスクも下がります。
また、金融機関で信託口口座を開設する時には、信託の事実を証明する証拠として公正証書による信託契約書の提出を求められることが多くありますので、そういった観点からも公正証書による信託契約がおすすめです。

信託不動産に関する登記を行う

家族信託が開始されると、もともと委託者の所有財産であったものも、形式的には受託者のもとへ所有権が移ります。そのため財産によっては名義変更の手続が必要になります。

不動産の場合は、2つの登記手続が必要です。
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つは受託者に所有権が移ったことを公示するための「所有権移転登記」。
もう1つは当該物件が信託財産になったことを公示するための「信託登記」です。

登記に関しては司法書士に依頼して手続を進めるのが一般的です。通常は2つの登記を同時に依頼することになりますが、法律上、所有権移転登記については法的な義務がありません(信託登記については法的義務です。)。とはいえ、登記は権利を守るためにも重要な仕組みですし、受託者が運用していくためにも事実上必須の手続です。
例えば当該物件を売却したいと考えても、登記がされていない物件だと取引を成立させるのは難しくなります。取引相手からすると、本当にその人物に所有権があるのかどうか、信託されているのかどうかがわかりません。信託不動産の運用に不都合が生じる可能性もあるので、所有権移転登記も必ず行うことをおすすめします。
なお、所有権移転登記は委託者と受託者が共同で申請を行う必要がありますが、信託登記は受託者が単独で行うことが可能です。

信託口口座を開設する

家族信託を始めるとき、「信託口口座」を開設することになります。

信託専用の口座を作ることで、受託者の純粋な財産との分別管理ができるようになりますし、分別管理ができていることを対外的にも示すことができます。
不動産を信託財産とするときには賃料収入が発生することもありますし、各種経費、税金に関して金銭を管理する必要があります。それらの金銭を管理するために信託口口座は欠かせません。

信託契約を締結する段階で事前に信託口口座開設に対応した金融機関を探しておきましょう。

家族信託を活用した不動産相続のメリット

家族信託を活用して不動産相続をすることには、「不動産管理や運用の柔軟性が高い」「二次相続まで見据えた対策が取れる」というメリットもあります。それぞれ詳細をみていきましょう。

相続前後における不動産管理・運用の柔軟性が上がる

上述の通り、任意後見制度でも財産管理を他人に行ってもらうことは可能です。しかし任意後見制度では本人の判断能力が低下して初めて財産管理が任されることになりますし、管理を任された側の自由度が低く、制約が大きいです。

これに対して家族信託だと契約で比較的自由に管理方法等を定めることができ、本人の判断能力が低下しているかどうかも関係なく効力を生じさせることができます。また、委託者が死亡した後の権利関係についても信託契約であらかじめ自由に設定しておくことができるので、相続前後問わずシームレスに期待する財産運用を続けることができます。

また、単に相続財産として不動産を相続人に分配するより、家族信託を利用した方が柔軟に受益権を分け与えることができます。
この点、遺言書を使って指定することもできるのですが、遺言書の場合、相続人全員が反対をすることによって遺言書に従わないことができるので遺言の内容が実現するか不明確であり、また遺言書は相続開始後にしかその効力を生じさせることができません。

家族信託であれば、こうした不都合点を解消して、柔軟な設計を行い、不動産相続でよくあるトラブルを防ぐことも可能です
例えば、遺言または遺産分割協議によって不動産から得られる利益を相続人で平等に分けることを目的として、不動産を共有名義にしてしまうと、各人自由に処分できなくなってしまうという不都合が生じます。共有者間で意見が揃わないと、適切な財産運用ができなくなり、有効活用するのも難しくなってしまいます。
しかし信託契約で受託者を設定しておけば、その人物の判断に従い機動的に運用することができ、そこから生じる利益を平等に分配していくこともできます。
共有者の1人が認知症になり判断能力を喪失してしまうと処分も簡単にできなくなりますが、受益者の1人が認知症になったとしても特段大きな問題にはなりません。

二次相続まで見据えた対策が取れる

家族信託を活用して不動産を信託財産にすることで、二次相続まで見据えた財産運用が可能となります。

遺言書を使った場合、被相続人の次の所有者を指定することができても(一次相続)、さらにその次の相続で誰に引き継がせるのか(二次相続)、といったところまでは指定することができません。

しかし家族信託であれば「受益者Aの死亡後はBが受益者に、Bの死亡後はCが受益者になる」などと工夫して契約書に記載しておけば、二次相続対策を取ることが可能になります

不動産を信託財産にするときの注意

以上で説明したように、家族信託の仕組みを使えば柔軟に不動産相続を行うことができます。ただしリスクがないわけではありません。キーマンとなる受託者の選び方、そして不動産から損益が生じる場合には、税務上の取扱いについても留意することが大事です。

受託者の選び方

受託者は、委託者の信頼できる人物であること、その上で適切に不動産を取り扱える人物であることが必要です。

特に家族間の約束となれば甘く捉えられる可能性があり、契約に反して信託財産からの利益を受託者が横取りする危険もないとはいえません。そのため契約内容に背く危険のない人物を選定することが前提となります。

また、人としての信頼があっても、不動産について何ら知見を持っていない方だと上手く不動産を扱うことができません。受託者本人に、契約の履行をしようという気持ちがあっても、不適切な運用をしてしまうことで不動産の価値を下げてしまうことも起こり得ます。
そのため不動産の管理や運用に慣れている方、売買などの処分行為も安心して任せられる方を探すようにしましょう。

なお、無理に家族内で信託を完結させる必要はありません。受託者1人に任せるのが不安という場合には、弁護士等の専門家に信託の監督をしてもらう(信託監督人になってもらう)ことも検討すると良いでしょう。

信託不動産に関する損益通算はできない

損益通算とは、確定申告等において黒字の所得から赤字の所得を控除することをいい、これによって所得を抑える効果があります。
この損益通算について信託不動産では注意が必要です。

複数の不動産を持っており、その一部を信託財産にする場合、信託している不動産と信託していない不動産との間で損益通算することができない、ということです

不動産Xと不動産Yを委託者が所有しており、Xだけを信託財産にしたとしましょう。
このときXが赤字を出したとしても、その分をYの利益から差し引いて税金の計算をすることはできません。信託契約をせずに委託者が両方の不動産をそのまま所有していた場にはYの利益からXの赤字分を差し引いて税額の計算できますので、税負担を軽減することができます。しかし信託財産とそれ以外の財産の間で損益通算することは認められない結果、Xだけを信託財産としてしまうとYの利益からXの赤字を引くことができなくなります。

さらに、信託財産の場合は赤字の繰越しができません。信託財産でない場合、Xに赤字が出ると、翌年にXが黒字になったとしても、繰越した分を差し引いて税額の計算ができるケースがあります。しかし信託財産だと、同じ財産から生じる損益に対してもこれができません。たとえ前年度が赤字だったとしても翌年に黒字になれば、その年はそのまま黒字分が税額の計算に用いられます。

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